プラスチックの海洋生分解度試験方法の再現性向上を目指して
― 海水中の微生物量測定方法を選択するためのガイドラインとしての活用を期待 ―
独立行政法人製品評価技術基盤機構[NITE(ナイト)、理事長:長谷川 史彦、本所:東京都渋谷区西原]は、静岡県環境衛生科学研究所、国立研究開発法人産業技術総合研究所(産総研)、一般財団法人化学物質評価研究機構(CERI)と共同で、主要な4つの微生物量測定方法について、微生物の量や種類などが異なる海水に対して、どの測定方法が海水試料中の微生物量測定において適切であるかを検討しました。また、その試験結果については、学術論文にまとめ、発表しました。本報は、今後、海水を使うプラスチックの生分解度試験などにおいて、適切な微生物量測定方法を選択するためのガイドラインとして活用されることが見込まれ、適切な測定方法の選択により、素材設計、分解試験、標準化のあいだがより強固につながり、研究開発現場や規格試験の実務における海洋生分解度試験方法の再現性向上が期待されます。
生分解性プラスチックは、プラスチックごみによる環境負荷を軽減する素材として期待され、様々な開発が行われています。実用環境として海洋が想定される場合や海洋に流出してしまう可能性がある用途においては、「実際に海で生分解されるのか」を適切に評価しなければなりません。しかし、プラスチックの海洋生分解度試験では、実際に採水した海水・堆積物などを用いて、実験室内で生分解度を評価する方法を採用しており、海水は採水場所や季節によって、栄養塩濃度だけではなく、含まれる微生物の量や種類が大きく異なるため、同じプラスチック素材でも再現性の高い試験結果を得ることが難しいという課題があります。したがって、結果を正しく比較・解釈するためには、試験に使う海水中の微生物の量や種類をきちんと把握する必要があり、それを把握するには原理が異なるいくつかの方法があることから、目的に応じて適切な方法を適切に選択しなければなりません。
この課題を解決するために、本研究では、微生物の量や種類などが異なる海水に対して、どの測定方法が海水試料中の微生物量測定に適切であるかを検討しました。具体的には、NITEと静岡県環境衛生科学研究所、産総研、CERIとの共同試験により、「蛍光顕微鏡を用いる計数法(MCC※1)」、「自動測定装置を用いる計数法(ACC※2)」、「定量PCRによる遺伝子数の測定法(qPCR※3)」、そして「寒天培地上のコロニー数を数える方法(CFU※4)」の4手法を比較しました(詳細は用語解説を参照)。
各手法にはそれぞれ特徴があります。MCCは、細胞を直接観察でき、従来から微生物量の測定に用いられてきた実績のある方法です。また、ACCは、MCCと同様に細胞を染色して検出する原理であり、測定の自動化により迅速な測定が可能です。他方で、qPCRは、遺伝子を指標として安定した定量が可能です。また、CFU法は、特別な機器を必要とせず比較的低コストで実施できることが強みです。
今回の試験の結果では、MCCとqPCRは、複数の海水試料に対して繰り返し測定をしても、結果が安定しており、再現性が高いことが示されました。このため、これらの方法は、海洋生分解性試験に用いる海水中の微生物量を把握する方法として適していると考えられます。試験前に、海水中の微生物量を確認する手段として用いることで、試験結果を解釈するための基礎情報を得ることが可能です。
一方、ACCは、迅速性に優れた方法ではありますが、海水のように微生物以外の不溶物や微粒子、微生物の凝集体などの様々な成分を含む複雑な試料では、MCCの結果との乖離が見られました。今後、測定手順や装置設定を整理することで、海水試料への適応性を高められる可能性はあります。
他方、CFU法は、培養可能な微生物を簡便に把握できる実用的な方法で、再現性の点では良好な結果を示しました。ただし、「測定時に用いた培養条件下で増殖できる微生物群」を反映する手法であるため、MCCの結果との比較では、海水試料によってバラツキがみられました。また、実際の海水中の微生物群集構成は、寒天培地上で形成された群集構成よりもはるかに多様であったことから、海水中の微生物全体像を把握する目的では、CFU法の特性を踏まえて結果を解釈することが必要です。
以上より、今回の検討結果を踏まえると、試験海水中の微生物量を適切に把握し、試験条件として記録・解釈することで、海洋生分解度試験の再現性の向上につながっていくことが期待されます。プラスチック素材開発では、「分解した/しなかった」という単純な結論だけでなく、その試験で用いた海水がどの程度の微生物量を有していたかを併せて示すことにより、材料間や試験間の比較がより行いやすくなります。今後、この論文をガイドラインとして適切な測定方法が選択されることで、素材設計、分解試験、標準化のあいだがより強固につながり、研究開発現場や規格試験の実務における海洋生分解度試験方法の再現性向上が期待されます。
なお、本研究の詳細が記載された論文「Robustness of microbial quantification methods to seawater in marine plastic biodegradation test」は、Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry誌(Volume 90, Issue 6, June 2026, Pages 835–838)に掲載されました。
用語解説
※1 MCC(manual cell counting):顕微鏡を用いて細胞を血球計算盤上でカウントする、あるいは蛍光顕微鏡を用いて蛍光染色した細胞をメンブレンフィルター上に捕集して手動カウントする。様々な形態・サイズ・分裂様式の微生物がおり、特に微生物の凝集はセルカウントを困難にする。
※2 ACC(automated cell counting):蛍光染色した細胞をメンブレンフィルター上に捕集して、自動測定装置を用いて自動カウントする。MCCと同様に、微生物の凝集はセルカウントを困難にする。
※3 qPCR(quantitative real-time PCR):サンプルから抽出した核酸を対象としてサーマルサイクラーと分光蛍光光度計を一体化した装置を用いてPCRを行い、対象に含まれるターゲット遺伝子のコピー数を測定し微生物量を推定する。ターゲット遺伝子によっては微生物ごとにコピー数が異なる場合がある。
※4 CFU(colony forming unit):特定の培地・培養条件で寒天培地上に出現したコロニー数を測定して微生物量を推定する。低コストで実施できるため試験現場で扱いやすいという利点がある一方、環境サンプル中には使用する培地・培養条件で増殖しない微生物が多く含まれる場合があることを考慮する必要がある。
関連ウェブページ
○NITEにおける海洋プラスチックごみ問題への取り組みについて
・日本沿岸での生分解性プラスチック浸漬試験から得られた微生物とそれらの分解活性
海洋生分解性プラスチックの社会実装に向けた技術開発事業について
この成果の一部は、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の委託業務(JPNP20008)の結果から得られたものです。

5つの異なる採水地点における海水の微生物量を4つの測定方法で測定し、
従来法である 蛍光顕微鏡との変化倍率の大きさを表した図
お問い合わせ
独立行政法人製品評価技術基盤機構 バイオテクノロジーセンター(NBRC)
所長 荒田 芙美子
担当 赤坂、三浦
TEL:0438-20-5764
Email: bio-sangyo-inquiry@nite.go.jp
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このプレスリリースを配信した企業・団体
- 名称 独立行政法人製品評価技術基盤機構
- 所在地 東京都
- 業種 政府・官公庁
- URL https://www.nite.go.jp/
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