魚類の精子の「ばらつき」は受精様式によって異なる

体内受精魚では、精子の長さがより均一であることを解明

岐阜大学

2026年8月31日

琉球大学

岐阜大学

大阪公立大学

魚類の精子の「ばらつき」は受精様式によって異なる
~体内受精魚では、精子の長さがより均一であることを解明~

 

 

 琉球大学熱帯⽣物圏研究センター瀬底研究施設の伊藤 岳 学振特別研究員(PD)と同施設の守田 昌哉 准教授、岐阜大学教育学部の古屋 康則 教授、大阪公立大学大学院理学研究科の安房田 智司 教授らの研究チームによる研究成果が国際学術雑誌「Journal of Evolutionary Biology」誌に掲載されました。

 

◆成果:海産魚類11種を比較し、体内で受精する種では、体外で受精する種よりも雄間および同じ雄の精子間における精子長のばらつきが小さいことを明らかにしました。

 

◆新規性:精子の平均的な形や大きさだけでなく、種間の違いに加えて、同じ種における雄個体間、および同一雄がつくる精子間のばらつきに着目し、受精様式や精子競争との関係性を示した点に新規性があります。

 

◆社会的意義:精子形成に働く進化的な選択や精子自体の品質管理の仕組みを理解する手がかりとなり、魚類の繁殖戦略や生殖形質の多様化を解明する研究への発展が期待されます。

 

 

 

研究の背景

 精子は卵に到達して受精するという機能に特化した生殖細胞で、頭部、中片、鞭毛という共通の基本構造を持ちます(図1)。受精という生物共通の役割を担う一方、その長さや形、運動性は種によって大きく異なります。こうした多様性がどのような繁殖環境で進化したのかを明らかにすることは、繁殖戦略や性選択(注1)の理解に重要です。この多様性には、体外受精・体内受精といった受精様式や、複数の雄の精子が受精をめぐって競う精子競争(注2)が関係すると考えられています。しかし、哺乳類は体内受精、カエル類の多くは体外受精であるように、受精様式は分類群ごとに大きく偏っています。そのため、受精様式の異なる種を比較しようとすると、系統的に大きく離れた分類群同士の比較になりやすく、繁殖行動や生殖器官の構造など、受精様式以外の違いも結果に影響します。このため、受精様式そのものが精子に与える影響を十分に調べることはできていませんでした。

 魚類には、近縁種の間でも体外受精と体内受精の両方がみられる分類群があります。研究チームはこの点に着目し、先行研究では、受精様式と精子競争レベルの異なる種を比較し、受精様式は精子全長ではなく頭部長と関連すること、精子競争が強い種ほど精子が長いことをこれまで明らかにしてきました( Ito et al. 2021, Journal of Zoology, Ito et al. 2022, Ecology and Evolution )。 

 

図1 精子の模式図

 

 

研究の内容

 本研究では、さらに精子の平均的な形質だけでなく、その「ばらつき」に着目しました。琉球大学熱帯⽣物圏研究センター瀬底研究施設の伊藤 岳 学振特別研究員(PD)と同施設の守田 昌哉 准教授、大阪公立大学大学院理学研究科の奥野 聖也 助教、筑波大学下田臨海実験センターの稲葉 一男 教授、柴 小菊 助教(現・お茶の水女子大学湾岸生物教育研究所准教授)、岐阜大学教育学部の古屋 康則 教授、ダイビングサービスF.WAVEの本間 光雄 氏、大阪公立大学大学院理学研究科の安房田 智司 教授らの研究チームは、受精様式と精子競争の程度が異なる海産魚11種を対象に(表1)、精子形質(精子全長、鞭毛長、頭部長、頭部幅、中片長、中片幅、精子の遊泳速度)を測定しました。そして、雄同士の違いである「雄間のばらつき」と、同じ雄がつくる精子同士の違いである「雄内のばらつき」を分けて解析しました。解析には、種間の系統関係、雄間差、測定数の違いを同時に扱えるベイズ階層モデル(注3)を用いました。

 

表1 研究に使用した魚種、その受精様式、および配偶様式から予測される精子競争レベル。

近縁種グループ 分類群 種名 受精様式 精子競争 レベル*1

1. スズキ系魚類の一群・Ovalentariaの仲間(最新の分類ではギンポ目)

スズメダイ科

クマノミ

体外受精

スズメダイ科

スズメダイ

体外受精

スズメダイ科

ナガサキスズメダイ

体外受精

ウミタナゴ科

ウミタナゴ

体内受精

2. スズキ目・カサゴ亜目の仲間

 

フサカサゴ科

キリンミノ

体外受精

オニオコゼ科

ハオコゼ

体外受精

フサカサゴ科

シロメバル

体内受精

フサカサゴ科

カサゴ

体内受精

3. スズキ目・トゲウオ亜目の仲間

クダヤガラ科

Tubesnout

体外受精

シワイカナゴ科

シワイカナゴ

体外受精

クダヤガラ科

クダヤガラ

体内配偶子会合*2

*1 精子競争レベルは一夫一妻、乱婚などの配偶様式やスニーカー(こっそり繁殖に参加する雄)の有無、繁殖場所の雄の密度などから推定した。

*2 クダヤガラでは、交尾によって精子が雌の体内へ送り込まれ、精子と卵が雌体内で接触するが最終的な受精は卵が海水中へ産み出された後に成立する。この特殊な受精様式は「体内配偶子会合」と呼ばれる。本研究では、精子が雌の体内環境を経験するという点に基づき、体内配偶子会合を示すクダヤガラを解析上、体内受精種と同じグループに含めた。

 

 その結果、体内受精種では体外受精種より、雄間・雄内のいずれにおいても精子全長のばらつきが小さく、より均一であることが分かりました(図2)。雄内のばらつきについては、精子全長のみならず中片長を除くすべての測定項目で体内受精種の方が小さいことが分かりました。体外受精種は全体としてはばらつきが大きいものの、精子競争が強いほど精子全長のばらつきが小さくなることが示されました(図2)。

 

 

図2 受精様式および精子競争レベルと精子全長のばらつきの関係。

系統関係および個体差を考慮したベイズ階層モデルによる推定値を示す。(a)雄間のばらつき。(b)雄内のばらつき。青色は体外受精種、赤色は体内受精種を表す。点は推定値、エラーバーは95%信用区間を示す。

 

 さらに、精子形質間でばらつきの大きさを比較したところ、雄間・雄内のいずれにおいても、精子全長と鞭毛長のばらつきが最も小さいことが分かりました(図3)。また、各精子形質のばらつきの大小には雄間と雄内で共通した傾向がみられ、雄間でばらつきの大きい形質は、雄内でもおおむねばらつきが大きいことが分かりました。

 

 

図3 精子形質によるばらつきの大きさの違い。

(a)雄間のばらつき。(b)雄内のばらつき。(c)各精子形質における雄間のばらつきと雄内のばらつきの関係。点は推定値、エラーバーは95%信用区間を示す。

 

 これらの結果から、体内受精種では、受精に適した一定の精子形態を保つ安定化選択(注4)が働き、とくに精子全長や鞭毛長が強い選択を受けている可能性が示唆されました。今回調べた体外受精種では、精子は卵に直接放出され、比較的短い距離と時間のうちに受精が起こります。体外受精においても、卵に到達して受精するうえで有利な精子形態があると考えられますが、精子競争が弱い場合、形態の違いが受精成功を左右する程度が相対的に小さく、より幅広い形態の精子が受精に寄与できる可能性があります。一方、体内受精では、精子は雌の生殖器官内を移動するため、その環境に適さない形態の精子は受精しにくく、長期的には進化の過程で規格外の精子は淘汰され、ばらつきが減少した可能性があります。

 また、体外受精種において、精子競争が強いほど精子全長のばらつきが小さかったことは、精子競争によって均一な精子をつくる方向に選択が働くとする、これまでの研究とも整合します。また、雄内でのばらつきが小さいことは、精子形成の過程で形をそろえる仕組み、すなわち品質管理がより厳密である可能性を示しています。さらに、雄間と雄内で形質ごとのばらつきに共通した傾向がみられたことから、精子の各部位の長さを調節する発生過程や遺伝的な制御などが、両方のばらつきに関係している可能性が考えられますが、その具体的な仕組みは今後の検証課題です。

 

 

社会的意義と今後の展望

 これまで、精子形質のばらつきと精子競争の関係は、主に哺乳類や鳥類などの体内受精動物で研究されてきました。本研究は、体外受精種と体内受精種を含む近縁な海産魚類を対象に、精子形質のばらつきを雄間と雄内に分け、受精様式と精子競争の影響を同時に検証した点に新規性があります。今後、対象を他の魚類へ広げるとともに、遺伝子発現や精子形成過程も調べることで、受精様式の変化に伴う生物の適応進化の一般則や、その分子メカニズムの解明につながることが期待されます。

 

 

用語解説

(注1)性選択: 繁殖をめぐる競争を通じて、配偶相手を獲得したり、受精を成功させたりするうえで有利な形質が、世代を重ねるなかで進化すること。求愛行動や体の装飾だけでなく、精子の形や運動性も性選択の影響を受けることがあります。

 

(注2)精子競争:複数の雄の精子が、同じ卵の受精をめぐって競争する現象。精子競争が強い種では、より多くの精子を生産することや、速く泳ぐ精子をつくることなど、受精の成功率を高める形質が進化する場合があることが知られています。

 

(注3)ベイズ階層モデル:個体差や種差など、複数の階層からなるデータを同時に扱うことのできる統計手法。各精子を互いに独立したデータとして扱うのではなく、同じ雄や近縁種のデータが似やすいこと、種や雄によって測定数が異なることを考慮して、調べたい要因の影響を推定できます。

 

(注4)安定化選択:ある形質について、中間的な値を持つ個体が有利となり、極端な値を持つ個体が相対的に不利になる自然選択です。そのため、安定化選択が働くと、集団内における形質のばらつきが小さくなると考えられます。

 

 

論文情報

(1) Inter- and intra-male variation in sperm length is associated with fertilization mode in marine fishes

(2) Journal of Evolutionary Biology

(3) Takeshi Ito*, Masaya Morita, Seiya Okuno, Kazuo Inaba, Kogiku Shiba, Yasunori Koya, Mitsuo Homma, Satoshi Awata

(4) DOI番号:10.1093/jeb/voag076

(5) アブストラクトURL:

https://academic.oup.com/jeb/advance-article-abstract/doi/10.1093/jeb/voag076/8770998

 

 

 

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  • 所在地 岐阜県
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