光コムで生体組織の“わずかな動き”までとらえる新しい3D計測技術を開発
ナノ変位の検出と高速断層イメージングで医療・産業応用に前進
2026年8月6日
新潟大学
岐阜大学
大阪大学
光コムで生体組織の“わずかな動き”までとらえる新しい3D計測技術を開発-
ナノ変位の検出と高速断層イメージングで医療・産業応用に前進-
本研究成果のポイント
・ 従来の“見えない領域”を解消し、生体組織や透明材料の微小変位・断層構造を一度に計測できる新手法を確立
・ 数十 nm 精度と1秒の高速取得を両立し、非接触での3D検査と高速トモグラフィ計測を実現
・ 単一光源・単一カメラで動作し、医療イメージング装置や顕微鏡システムへの組み込みが容易な高性能計測系を構築
新潟大学工学部電子情報通信プログラムの崔森悦准教授らの研究グループは、岐阜大学大学院医学系研究科生命原理学講座生体物理・生理学分野の任書晃教授、大阪大学大学院医学系研究科薬理学講座統合薬理学の日比野浩教授らと共同で、光周波数コム(注1)を用いた新しい干渉計測手法を開発しました。従来の光コム計測では、コム間隔が固定され測定範囲や精度の調整が難しく、さらに干渉信号が消える「盲領域」が発生するという課題がありました。本研究では、干渉信号に位相変調(SPM)を導入することでこの制約を克服し、盲領域を完全に解消しながら高速・高精度・広帯域の全視野3D計測を実現しました。本成果は、2026年7月12日に、光計測分野の国際誌「Optics & Laser Technology」に掲載されました。
Ⅰ.研究の背景
光コムは、光の周波数が櫛のように等間隔に並んだ特殊なレーザ光で、“光の物差し”として高精度な距離計測や分光計測に広く利用されています。しかし、従来の光コム計測では、コム間隔が固定されているため、測定範囲や精度を柔軟に調整できないという制約がありました。さらに、光コムの周波数間隔を電子的に掃引して3次元形状を取得する際、試料の形状によって干渉振幅がゼロになる「盲領域」が必ず発生し、表面の一部が測れなくなる問題がありました。既存の回避策は複数光路や複数検出器を必要とするなど装置が複雑になる傾向があり、光コムの高速性・高精度性を十分に活かしきれない状況でした。
本研究では、この構造的な制約を克服するために、干渉信号に正弦波位相変調(Sinusoidal Phase Modulation: SPM)(注2)を導入し(図1)、盲領域を原理的に解消しながら、位相が定在する干渉ピークを利用した高速・高精度な全視野3D計測を可能にする新しい方式を提案しました。

図1. 提案手法のコンセプトと原理、(a)測定面の微小なスロープ、(b) それぞれの位置に応じて変化する光コム干渉法のピーク波形、(c)SPMを施した場合の干渉ピーク波形、(d) 提案する新しい信号処理法によって復元される位相分布と干渉ピークエンベロープ
Ⅱ.研究の概要
本研究では、電気光学変調によって生成した 10 GHz 間隔の光周波数コム(EOコム(注3))から、非線形光学効果を利用して波長帯域を大幅に広げた高安定なスーパーコンティニウム(注4)光源を構築しました。この光源を用いて、単一光学系・単一カメラによるフルフィールド干渉計測顕微鏡を設計し、光路差に応じて変化する干渉信号を高速に取得できるようにしました。
さらに、EOコムの周波数間隔を電子的に掃引する光コム干渉法に、SPM技術を導入することで、先行研究で必ず発生していた干渉振幅の消失(盲領域)を原理的に解消できることを示しました。つまり、SPMによって干渉位相が時間的に変調されるため、位相がπ/2付近で振幅がゼロになる領域でも安定した干渉信号が得られ、全視野で連続した深さ情報を取得できます。
本計測系では、顕微観察できる規模の測定領域に対して、深さ方向で数ミリメートルの範囲をカバーし、9.995から10.005 GHzまでの周波数間隔掃引を用いた1回の計測を約1秒で完了できる構成としました。これにより、640×518×865 voxelの3Dボリュームデータを1秒で取得できる高速トモグラフィが可能となり、広帯域光源と高速カメラを組み合わせたフルフィールド3D計測の新しい方式を実現しています。

図2. 実験系、EOコム発生器からの出力を広帯域なスーパーコンティニウム光化する光源は、従来の干渉顕微鏡システムへ容易に組み込むことができる。
Ⅲ.研究の成果
本研究は、概要でも述べた通り、光周波数コム(10 GHz間隔のEOコムをスーパーコンティニウム化した広帯域光源)と SPMを組み合わせた新しい干渉計測法を実証しました。本方式は、赤外高速イメージセンサ(InGaAsカメラ)を用いた単一光路・単一カメラ方式を採用し(図2)、従来の周波数間隔掃引に伴って生じていた干渉振幅の消失(盲領域)を解消し、フルフィールドで取得した位相情報を用いてサブミクロン精度の3D形状及び断層構造の計測・可視化を可能にしました。
本方式の有効性は、複数の代表的な試料を用いた実験により確認されました。まず、段差標準試料の測定(図3a)では、SPMによる位相復元を用いることで、従来のピーク位置法では得られなかった連続的な深さ情報が取得でき、段差高さの繰り返し測定において約0.05 µm(2σ)の高い再現性を示しました。次に、非鏡面の硬貨表面の計測(図3b)では、粗面に対しても盲領域が発生せず、全視野で安定した振幅・位相分布が得られ、複雑な微細凹凸形状を高速に3D再構成できることを確認しました。さらに、ガラス板の厚さ計測(図3c)では、内部反射を伴う多層構造に対してもSTFTを併用した位相追跡により断層構造を正確に抽出でき、厚さ評価においてサブミクロン級の精度を達成しました。
本研究では、測定誤差についても総合的に評価を行い、位相情報を用いた本研究で提案した距離測定法が、従来のピーク位置法に比べて大幅に高い精度と再現性を示すことを確認しました(図4)。特に、繰り返し測定の誤差は凡そ数十nmの精度が得られ、硬貨やガラス板のような異なる性質の試料に対しても一貫して高い精度を示しました。これらの評価結果から、本方式は多様な試料に対して高速かつ高精度な3D計測を実現できる、実用性の高い新しい光コム干渉計測技術であることが示されました。

図3. 本手法を用いて得られた測定結果、(a) 段差標準、(b)10円硬貨表面、(c)ガラス薄膜
図4. 信号対雑音比(SNR)に対する繰り返し誤差(2s)の比較
(a)従来のピーク位置から求める方法では1 µm以上の誤差があるが、(b)位相を用いた新手法では、約50 nm以下に抑えられている。
Ⅳ.今後の展開
本研究で示した計測方式は、深さ分解能の限界を超えて微小な変動を捉えられるという特長を持ち、ナノメートルスケールで変化する生体ダイナミクスの観測に大きな可能性を広げます。細胞や膜構造の高速な揺らぎをリアルタイムに検出できるため、生体ダイナミックスOCT(注5)への応用が期待されます。
また、非接触で高速・高精度な全視野計測が可能であることから、薄膜厚さ評価や微細加工面の検査など、産業計測への展開も有望です。従来の顕微鏡システム上に容易に組み込めるため、装置の小型化や製造ラインへの導入にも適しています。
さらに、本手法の特長は、より高速な3D計測技術への発展にもつながります。画像処理の負荷が小さいため、将来的には毎秒数十〜数百ボリュームの3D計測も視野に入ります。現在投稿中の研究では、この特長を活かしたさらなる高速化手法を検討しており、リアルタイム3D計測の新しいアーキテクチャとして発展する可能性があります。
Ⅴ.研究成果の公表
本研究成果は、2026年7月12日、科学誌「Optics & Laser Technology」に掲載されました。
【論文タイトル】Optical comb-based interferometry with sinusoidal phase modulation for full-field surface profile and tomographic measurement
【著者】Samuel Choi, Souta Miura, Atsuto Sugai, Shivam Kumar Chaubey, Fumiaki Nin, Hiroshi Hibino, Osami Sasaki.
【doi】10.1016/j.optlastec.2026.115926
Ⅵ.謝辞
本研究は、JSPS 科研費(24K21607, 24K02596 及び24K00897)、 日本医療研究開発機構(AMED)革新的先端研究開発支援事業AMED-CRESTメカノバイオロジー機構の解明による革新的医療機器及び医療技術の創出研究領域「内耳による音のナノ振動の受容・応答機構の解明と難聴治療への展開」、同AMED-CRESTマルチセンシングネットワークの統合的理解と制御機構の解明による革新的医療技術開発研究領域「加齢性難聴の克服に資する病態解明と次世代型医療の基盤技術の創出」、及びJST創発的研究支援事業(グラント番号:JPMJFR 25126424)の助成を受けて行われました。
用語解説
(注1)光周波数コム(Optical Frequency Comb)
光の周波数(光の色)が、櫛(くし)の歯のように等間隔に並んだ特殊なレーザ光。多数の周波数をもつ光波が正確にそろっているため、「光の物差し」として距離計測や分光分析に使われる。非常に高い精度で光の周波数を扱えることが特徴。
(注2)正弦波位相変調(Sinusoidal Phase Modulation: SPM)
干渉光の干渉縞や時間波形の位相(波のタイミング)を、正弦波の形で周期的に揺らす技術。レーザ干渉計において広く用いられ、光路差情報である干渉縞の位相を定量的に求めることができる。本研究では、従来測れなかった「盲領域」を検出可能にする重要な役割を果たす。
(注3)EOコム(Electro‑Optic Comb)
電気信号で光を高速に変調して作る光周波数コム。レーザ光に電気的な変調を加えることで、等間隔の多数の光周波数成分を生成できる。装置構成が比較的簡便で、電子的に制御しやすく周波数間隔が可変であることが特徴である。
(注4)スーパーコンティニウム(Supercontinuum)
単色のレーザ光を特殊な光ファイバに通すことで、非常に広い波長帯域に広がった「白色光のような光」を作る技術。本研究では、EOコムを光ファイバで広帯域化し、深さ方向の分解能を高めるために利用している。
(注5)OCT(Optical Coherence Tomography:光干渉断層撮像法)
光の干渉を利用して、物体の内部構造を非接触で撮影する技術。医療分野では眼科検査や生体組織の観察に広く使われている。
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このプレスリリースを配信した企業・団体
- 名称 国立大学法人東海国立大学機構岐阜大学
- 所在地 岐阜県
- 業種 大学
- URL https://www.gifu-u.ac.jp/
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