南極のオニクマムシの生態とは!?

― オスとメスで形態が大きく異なり、野外では別のクマムシを食べていた ―

 1.  ポイント

・南極・ラングホブデ注1で、希少なクマデオニクマムシ注2 (Milnesium rastrum)が多数生息する場所を発見

・33個体を調査し、オスとメスの体の大きさや形態の明確な違いを初めて詳しく解明

・オスには、交尾に関係すると考えられる特徴的な鉤状の爪が発達

・メスでは、体が大きくなるほど爪の突起数が増える傾向を確認

・消化管の内容物から、自然環境で別種のクマムシを捕食していることを明らかに

・南極の微小生態系におけるクマムシの生態的役割を理解するための重要な知見

 2.  概要

 南極大陸には、極寒や乾燥といった厳しい環境に適応した、さまざまな微小動物が生息しています。その中でもクマムシは、極限環境への高い耐性で知られていますが、南極に生息するクマムシの生態については、まだ分かっていないことが多く残されています。

 東京都立大学大学院理学研究科生命科学専攻の杉浦健太 助教、総合研究大学院大学先端学術院極域科学コースの高平夏芽 博士課程学生、横浜国立大学大学院環境情報研究院の和田智竹 特任研究員らの研究グループは、第67次南極地域観測隊の調査において、南極・ラングホブデ地域(昭和基地近くの露岩域)で、これまでほとんど詳しく調べられていなかったクマデオニクマムシ(オニクマムシ属に属するクマムシの南極固有種)の個体が多数生息する場所を発見しました。

 本研究成果は、2026年9月1日付け(日本時間)で日本動物学会が発行する国際誌「Zoological Letters」に掲載されました。なお、本研究は、科学研究費助成事業(科研費)、南極地域観測隊一般研究観測の支援を受けて行われました。

 3.  研究の背景

 南極の湿地帯には、厳しい寒冷・乾燥環境に適応した多様な微小動物が生息しています。その一つであるクマムシ類からは、これまでに多くの種類が南極から報告されていますが、その生態や他の生物との関係については、まだ十分に分かっていません。

 本研究で対象としたクマデオニクマムシ(Milnesium rastrum)は、南極の限られた地域から知られるクマムシで、特徴的な爪を持つことから2023年に新種として記載されました(参考文献1)。しかし、これまで確認された個体数が非常に少なく、オスとメスの違いや成長に伴う形態変化、自然環境で何を食べているのかといった基本的な生態はほとんど分かっていませんでした。

今回研究グループは、第67次南極地域観測隊に参加し、ラングホブデ地域にクマデオニクマムシが多数生息する場所を発見したことで、詳しい形態・生態調査が行えるようになりました。

 

論文著者: 左から和田、杉浦、高平

 4.  研究の詳細

 クマデオニクマムシは、2023年に新種として記載されたクマムシで、通常のクマムシとは異なる特徴的な爪を持つことが知られていました。一方、これまで確認された個体数が非常に少なかったため、オスとメスの形態の違いや成長に伴う変化、自然環境で何を食べているのかといった基本的な生態はほとんど分かっていませんでした。

 今回の調査では、33個体を採集し、そのうち17個体がオス、14個体が成体メス、2個体が幼体でした。この結果から、野外におけるオスとメスの割合はおおむね1対1である可能性が示されました。

 さらに詳しく観察したところ、メスはオスより大型で、最大742 μm (約0.74 mm)に達する一方、オスは最大549 μm (約0.55 mm)で、さらにオスの下半身がより細身になることが明らかになりました。また、オスの第1脚には、メスには見られない特徴的な鉤状の大きな爪が発達していました(図1)。こうした性差は、これまで少数の個体から推測されていたものではなく、今回初めて統計的に詳しく示されたものです。

 

 

図1: クマデオニクマムシとその爪

 興味深いことに、クマデオニクマムシの特徴である爪の先の突起の本数にも、体の大きさに伴う変化が見つかりました。特にメスでは、体が大きくなるほど突起の数が増える傾向が強く、大型の個体では最大7個の突起が確認されました。一方、オスの第1脚では、この数が一貫して2個に保たれていました。これらの結果は、オスとメスで成長後の形態変化の仕組みが異なる可能性を示しています。

 さらに本研究では、クマデオニクマムシが自然環境で何を食べているのかについても手がかりを得ました。採集した個体の消化管を調べたところ、他のクマムシの爪や口器、咽頭の構造などが見つかりました(図2)。これらの特徴を詳しく比較した結果、食べられていたクマムシは、同じラングホブデ地域に生息する別種のクマムシ(Diphascon langhovdense注3)である可能性が高いことが分かりました。つまり、クマデオニクマムシは南極の自然環境において、他のクマムシを捕食する捕食者として生活していることが示されました。

 

図2: 一般的なクマムシの口器の形と、クマデオニクマムシの胃内容物

 

 これまでクマデオニクマムシについては、実験室で飼育した個体がワムシを食べることは報告されていましたが、自然環境で何を食べているのかはよく分かっていませんでした。今回の研究により、南極の微小な生態系の中で、クマムシ同士の捕食・被食関係が存在することが明らかになりました。

 本研究は、これまで極限環境に耐える生物として注目されることの多かったクマムシについて、南極の自然環境の中で、どのような形態を持ち、どのように成長し、他の生物とどのような関係を築いているのかを明らかにしたものです。特に、これまで標本不足のため研究が難しかったクマデオニクマムシについて、多数の個体を一度に調査できたことが、今回の成果につながりました。

 今後、異なる地域から採集した個体を比較することで、クマデオニクマムシの分布や食性、繁殖・交尾行動などをさらに詳しく調べることが期待されます。また、オスの第1脚に発達した鉤状の爪が、交尾の際にどのような役割を果たすのかについても、今後の重要な研究課題となります。

 

5.  研究の意義と波及効果

 本研究は、これまで生態がほとんど明らかになっていなかった南極固有のクマデオニクマムシについて、オスとメスの形態的な違いや成長に伴う爪の変化を明らかにしたものです。さらに、消化管内から別種のクマムシの特徴が確認され、自然環境においてクマムシを捕食していることが示されました。これは、南極の微小な生態系におけるクマムシの捕食者としての役割を明らかにする重要な成果です。

 本研究を契機として、今後さらに野外での調査や比較研究が進むことで、南極の微小動物からなる生態系における食物網や、極限環境に生息する生物の多様性・生態の理解が進むことが期待されます。

 6.  用語解説

 (注1)ラングホブデ: 昭和基地から約20 km離れた位置にある露岩域(夏に雪が溶け、地表が剥き出しになる一帯)。

(注2)クマデオニクマムシ: 2023年に新種として記載された南極の固有種。南極の昭和基地近辺でのみ生息が確認されている。

(注3)Diphascon langhovdense: 1964年に南極観測隊によって発見されたクマムシ。口器が長いことが特徴。

(参考文献1) AC Suzuki, K Sugiura, M Tsujimoto, R Nakai, SJ McInnes, H Kagoshima, S Imura
"A New Species of Bisexual Milnesium (Eutardigrada: Apochela) Having Aberrant Claws from Innhovde, Dronning Maud Land, East Antarctica,"
Zoological Science 40(3), 246-261. https://doi.org/10.2108/zs220085

  7.  論文情報

掲載誌:Zoological Letters

タイトル:Sexual dimorphism, allometric morphological changes, and wild diet of the endemic Antarctic tardigrade Milnesium rastrum

著者:Kenta Sugiura, Natsume Takahira, Tomotake Wada

DOI:10.1186/s40851-026-00270-x

URL:https://link.springer.com/article/10.1186/s40851-026-00270-x

本プレスリリースは発表元が入力した原稿をそのまま掲載しております。また、プレスリリースへのお問い合わせは発表元に直接お願いいたします。

プレスリリース添付画像

図2: 一般的なクマムシの口器の形と、クマデオニクマムシの胃内容物

図1: クマデオニクマムシとその爪

論文著者: 左から和田、杉浦、高平

このプレスリリースには、報道機関向けの情報があります。

プレス会員登録を行うと、広報担当者の連絡先や、イベント・記者会見の情報など、報道機関だけに公開する情報が閲覧できるようになります。

プレスリリース受信に関するご案内

このプレスリリースを配信した企業・団体

SNSでも最新のプレスリリース情報をいち早く配信中

過去に配信したプレスリリース