内臓脂肪と腸内細菌の関係についての研究

花王

2019年10月28日

花王株式会社

内臓脂肪と腸内細菌の関係についての研究

~内臓脂肪面積が小さい人はブラウティア(Blautia)菌が多いことを発見~

花王株式会社(社長・澤田道隆)、弘前大学(学長・佐藤敬)、東京大学(総長・五神真)による研究グループは、内臓脂肪と腸内細菌の関係を性別による影響も含めて検討しました。その結果、性別に関わらず、腸内細菌の一種のブラウティア菌が内臓脂肪面積※1と関係しており、内臓脂肪面積が小さい人は腸内のブラウティア菌が多いことを発見しました(図1)。

図1 内臓脂肪面積とブラウティア菌存在比の関係性

本研究内容は、npj Biofilms and Microbiomes に掲載されています。※2  また、European congress of obesity 2019(2019年4月28日~2019年5月1日、グラスゴー)で発表しました。

本成果は、花王株式会社 ヘルスケア研究所、弘前大学大学院医学研究科 中路重之特任教授、東京大学医科学研究所 井元清哉教授の研究チームによる、弘前大学COIにおける「岩木健康増進プロジェクト」の健康ビッグデータを用いた共同研究によるものです。

※1 内臓脂肪面積:おなかを中心とした内臓のまわりについた脂肪の量。

※2 Blautia genus associated with visceral fat accumulation in adults 20–76 years of age, npj Biofilms and Microbiomes, 2019. https://www.nature.com/articles/s41522-019-0101-x

背景

腸内細菌は最近日本でも注目を集めている研究分野で、腸内フローラ※3がさまざまな疾患に関与していること、腸内細菌の代謝物が体のさまざまな器官に作用していることなどが知られています。また、腸内細菌と肥満の指数であるBMI※4との関係も報告されてきました。これらの研究では特定の細菌群(ファーミキューテス門※5とバクテロイデス門※6)とBMIの関係が数多く議論されてきましたが、被験者数も多くなく、その見解は一貫していませんでした。

一方、内臓脂肪面積は、生活習慣病との関係が深いとされるメタボリックシンドロームの診断基準であり、BMIより生活習慣病との相関が高いことがわかっています。花王は長年にわたり、健康寿命を延伸するため、内臓脂肪についての研究を重ねてきました。

本研究は、内臓脂肪と腸内細菌の関係を男女別に検討した初めての※7研究です。

※3 腸内フローラ: ヒトや動物の腸内で一定のバランスを維持しながら共存する多種多様な腸内細菌の集まりのことで、腸内細菌叢とも呼ばれる。

※4 BMI: Body Mass Indexの略。身長と体重の関係から算出される肥満度を示す体格指標。大きい方が肥満の傾向が高いとされる。

※5 ファーミキューテス(Firmicutes)門: 腸内フローラを形成する主要な細菌グループのひとつで納豆菌やラクトバチルス(乳酸菌の一種)などを含む。「門」は、生物を分類するときのグループ単位。

※6 バクテロイデス(Bacteroidetes)門: 腸内フローラを形成する主要な細菌グループのひとつ。

※7 生命科学、生物医学を検索できる世界で代表的な科学文献データベースPubmedを用いて “visceral fat” and “gut microbiota or intestinal bacterium” and “sex or gender” で検索し、該当なし (2019年10月5日現在、花王調べ)。

今回の研究知見

(1) BMI、内臓脂肪面積と腸内細菌ファーミキューテス門、バクテロイデス門の関係には性別による違いがあった

研究チームは、BMIと腸内細菌ファーミキューテス門、バクテロイデス門の関係についての過去の報告を精査し、結果に一貫性がないのは男女の性差の影響があるのではないかという仮説を立てました。そこで弘前大学COIにおける岩木健康増進プロジェクト健診データ(20~76才男女、n=1001)を用いてこの点を検証したところ、BMI、内臓脂肪面積ともに、ファーミキューテス門、バクテロイデス門の関係は男女で異なることを確認しました(表1)。

表1 BMI、内臓脂肪面積とファーミキューテス門、バクテロイデス門の関係

(2)  性別に関わらず、腸内細菌の一種ブラウティア菌が内臓脂肪面積と関係していることを発見

腸内細菌と内臓脂肪面積の関係をさらに詳しく調べるため、東京大学医科学研究所 井元清哉教授の研究チームの協力のもと、スーパーコンピューターを用いて岩木健康増進プロジェクト健診データ(20~76才男女、n=1001)を門よりも細かい分類である属で網羅的(305種)に分析しました。その結果、性別に関係なく、内臓脂肪面積が小さい人ほどブラウティア菌の存在比が高いことを発見しました(図1)。この傾向は、共分散分析で年齢、喫煙、飲酒などの要因の影響を取り除いても確認されました。

ブラウティア菌は、今回の対象者でも全腸内細菌の3~11%程度を占めるなど、人種に関わらず腸内に多く存在する細菌です。体内で肥満を解消するはたらきがある酪酸や酢酸をつくり出すほか、糖尿病、肝硬変、大腸がん、関節リウマチの患者で減少していることが報告されています。今後のさらなる検証によっては、ブラウティア菌がメタボリックシンドロームに関係する前述した疾患を改善する可能性や、肥満や糖尿病の新たな指標となる可能性も考えられます。

本研究成果は、生活習慣病のリスクを高める内臓脂肪に対するアプローチのひとつとなることが期待されるものです。花王は今後も内臓脂肪に関する知見の蓄積を通じて、世界中の人々の健康づくりに貢献してまいります。

参考情報:COI STREAMと弘前大学COIについて

革新的イノベーション創出プログラム「COI STREAM」とは、“10年後の理想とする社会”(将来像)からバックキャスティングした研究活動を行い、創出された新しい成果を社会実装させることで大きなイノベーションを起こすために長期間(最大9年間)の研究を支援する文部科学省・JST(科学技術振興機構)のプログラムです。

弘前大学COIは、全国に18あるCOI拠点のひとつであり、青森県弘前市岩木地区で十数年間実施してきた「岩木健康増進プロジェクト」の約 2000 項目にわたる超多項目健康ビッグデータを解析することで、認知症・生活習慣病などの早期発見を可能にし、予防方法の創出と検証を行ない、その成果を社会実装することをめざしています。2019年には、「日本オープンイノベーション大賞」にて最も優れた取り組み・プロジェクトとして最高の「内閣総理大臣賞」を受賞しました。

http://coi.hirosaki-u.ac.jp/web/index.html

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プレスリリース添付画像

図1 内臓脂肪面積とブラウティア菌存在比の関係性

表1 BMI、内臓脂肪面積とファーミキューテス門、バクテロイデス門の関係

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