認知機能の評価指標として血中D-アミノ酸が有用であることを発見

-血中のキラルアミノ酸を迅速・高感度に解析する技術を開発-

花王

2020年2月28日

花王株式会社

 花王株式会社(社長・澤田道隆)解析科学研究所・生物科学研究所は、血中のキラルアミノ酸※1を迅速・高感度に一斉解析する技術「Chiraltandem LC-MS/MSsystems(キラルタンデム液体クロマトグラフ質量分析システム)」を開発しました。さらに、東京都健康長寿医療センター(理事長・鳥羽研二)との共同研究により、認知機能の変化を評価する指標として、血中に微量しか存在しないD-アミノ酸(D-プロリン、D-セリン)が有用であることを見出しました。

 本研究成果は、1月21日(日本時間)に英国科学雑誌「ScientificReports」オンライン版に掲載されました※2。またその一部は、「日本化学会第100回春季年会(2020年3月22~25日・千葉県)」で発表する予定です。

※1 キラルは、ギリシャ語(cheir)で「手」の意。生化学では、左右の手のように自らの鏡像と重ね合わすことのできない分子構造を指す。ここでは「キラルアミノ酸」は、D体とL体に識別されたアミノ酸のこと。

※2 Kimura,R.; Tsujimura, H.; Tsuchiya, M.; Soga, S.; Ota, N.; Tanaka, A.; Kim,H. Development of a cognitive function marker based on   D-amino acidproportions using new chiral tandem LC-MS/MS systems  https://www.nature.com/articles/s41598-020-57878-y

 

背景

 高齢化に伴い、認知症患者は年々増加しています。国際アルツハイマー病協会の調査によれば、2030年には患者数が世界中で8,200万人にのぼると予測され、日本でも大きな社会問題となっています。日本政府による認知症への取り組みでは、「認知症になるのを遅らせる」「認知症になっても進行を緩やかにする」予防の観点が盛り込まれており、認知症を早期に発見し、早期に治療することが極めて重要です。しかし、認知症を早期に、簡便に診断する方法は十分とはいえません。

 現在、認知症の診断には、脳脊髄液を採取する検査、脳MRI・PETといった画像検査などが行なわれています。しかし、脳脊髄液検査は侵襲性が高いため早期診断にはあまり用いられず、画像検査であるMRI・PET検査は高額で、実施施設も限定されます。こうした現状から、身体的・経済的負担の大きい精密検査を行なう前に、簡便な方法で認知症を早期にスクリーニングできる方法が求められています。

 

キラルアミノ酸D体に着目

アミノ酸は、DNAや脂質などと共に生命活動に重要な役割を果たす化合物です。アミノ酸には、プロリンやセリンといった分子種それぞれに、形も大きさも同じでありながら構造が鏡に映ったような関係となるL体とD体が存在します※3(図1)。

※3 グリシンを除く

 

 

 長年、ヒトを含む哺乳類にはL-アミノ酸しか存在しないと考えられてきましたが、近年D-アミノ酸も極微量ながら存在することがわかってきました。さらに、D-アミノ酸は、さまざまな疾病や老化などと関連することも報告され、世界的に注目を集めつつあります。

 そこで今回、花王はD-アミノ酸と認知機能との関係に焦点を当て、認知機能の評価指標探索を行ないました。

 

研究1 血中キラルアミノ酸を迅速・高感度に解析する技術を開発

 通常、キラルアミノ酸を精度よく分離・定量するためには、その成分の種類(分子種)とキラル(L体とD体)を多段階で分離する方法が使われます。しかし、この方法では各々に適した原理で分離する装置が複数台必要で、操作も複雑となり、解析に長時間を要します。

 そこで花王は、2種(分子種とキラル)の分離原理を同時に達成できる解析技術について検討。機序が異なる2種のカラムを直列に接続するシンプルな構成で、誘導体化した全キラルアミノ酸を迅速かつ高感度に一斉分析する独自技術を開発しました(図2)。この技術では、20分程度で血中キラルアミノ酸を包括的に解析できることから、大規模ヒト試験への応用が可能になりました。

 

研究2 血中キラルアミノ酸と認知機能との関連

 続いて花王は、東京都健康長寿医療センターの横断コホート研究(お達者検診:65歳以上の高齢女性対象)に参画。健常者・軽度認知障害(MCI)の疑いのある方・認知症の疑いのある方(MMSE※4による分類)305名における血中キラルアミノ酸の一斉解析を行ない、認知機能との関連を調べました。

 その結果、認知機能低下気味の方(MCI・認知症の疑いのある方)では、血中アミノ酸のD体存在比(%:D/(D+L)×100)が上昇していることを確認。特に血中D-プロリンおよびD-セリンの存在比が認知機能の評価指標として有用であることを見出しました(図3)。

※4専門医の問診により認知機能を評価するための方法。得点の範囲は30~0点(正常→重度)とされている

 

 

今後の展望

 血中キラルアミノ酸(特にD-アミノ酸)を解析することで、簡易な採血で認知機能をモニタリングできる可能性を見出しました。将来的に、認知症早期スクリーニング検査への応用が期待されます。

 今後は、認知機能と血中キラルアミノ酸の研究をさらに進め、一人ひとりの脳健康を低負担で捉えるリスク診断技術、ヘルスケア領域へ応用していきます。

 

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