がんの悪性化に関わる糖鎖合成酵素GnT-Vは糖鎖をつけるタンパク質を選ぶ

〜GnT-Vの中のNドメインが鍵〜

岐阜大学

2022/1/31 13:10

令和4年1月31日

国立大学法人東海国立大学機構 岐阜大学

がんの悪性化に関わる糖鎖合成酵素GnT-Vは糖鎖をつけるタンパク質を選ぶ 〜GnT-Vの中のNドメインが鍵〜

 

 岐阜大学糖鎖生命コア研究所(iGCORE)の木塚康彦准教授、自然科学技術研究科1年の大須賀玲奈さんらの研究グループは、大阪大学や広島大学などとの共同研究で、がんの悪性化に関わる糖鎖合成酵素GnT-Vが、タンパク質を選んで糖鎖をつけることを発見しました。さらに、GnT-Vの一部であるNドメインと呼ばれる領域が、標的となるタンパク質を選ぶ上で不可欠であることを明らかにしました。本研究は、特定の糖鎖がどのようにして特定のタンパク質につくのか、という疑問の解明に向けて重要な知見を与えるとともに、糖鎖が関わるがんの悪性化の仕組みの解明にも役立つことが期待されます。

 本研究成果は、2022年1月30日(日)(日本時間)にThe Journal of Biological Chemistry誌のオンライン版で発表されました。

 

【発表のポイント】

・GnT-Vは、細胞内で特定のタンパク質上の糖鎖に作用し、糖鎖を枝分かれさせる酵素である。

・これまでに、GnT-Vが作る糖鎖の枝分かれ構造は、がんの増殖・転移を促進させることがわかっている。しかし、GnT-Vがどのように特定のタンパク質のみに働くのかはわかっていなかった。

・GnT-V内に含まれる機能不明のNドメイン領域に注目した結果、GnT-Vは、Nドメインを介して標的となるタンパク質を直接選ぶことを明らかにした。

・本研究によって、糖鎖が細胞内でタンパク質ごとに異なる形で作られる仕組みや、糖鎖が関わるがんの病態メカニズムの理解の進展が期待できる。

 

【研究背景】

 糖鎖(注1)とは、ブドウ糖などの糖(動物では約10種類の糖が存在)が枝分かれしながら鎖状につながったもので、タンパク質や脂質などに結合した状態で存在しています。動物では、体内の半数以上のタンパク質に糖鎖がついています。タンパク質についている糖鎖には様々な形のものがあり、タンパク質ごとに形が異なることや、同じタンパク質でも、健康なときと病気のときとで糖鎖の形が変化することなどが知られています。こうした疾患特異的な糖鎖の変化は、バイオマーカー(注2)として実際に医療の現場でがんの診断などに使われています。

 タンパク質につく糖鎖は、細胞の中で糖転移酵素(注3)(糖鎖合成酵素)と呼ばれる酵素の働きによって作られます。180種類ほど存在しているヒトの糖転移酵素の一つとして知られるGnT-V(注4)は、細胞の中で、タンパク質についた糖鎖に作用し、糖鎖の枝分かれ構造を作ります(図1)。このGnT-Vが作るβ1,6分岐と呼ばれる枝分かれ構造は、がんの発症・進行と深い関係があることがわかっています。多くのがんで、GnT-VやGnT-Vが作る糖鎖の枝分かれ構造が増えることや、GnT-Vの発現が高いがん患者では予後が悪くなる傾向を示すことなどから、GnT-Vはがんの治療標的の一つと考えられています。

 またGnT-Vは、糖鎖を持つ全てのタンパク質に一様に働くわけではなく、特定のタンパク質にだけ作用することが知られています。このように、個々の糖転移酵素が特定のタンパク質に作用することによって、それぞれのタンパク質の上に固有の糖鎖が形作られます。そうした複雑な糖鎖の合成の仕組みが、生体の機能維持や疾患の発症・悪性化に関わると考えられますが、タンパク質ごとに異なる糖鎖が作られる仕組みはほとんどわかっていません。GnT-Vについても、どのように標的タンパク質を選んで作用しているのかは全くわかっていませんでした。このような背景をふまえ、木塚准教授らは、GnT-Vの中にあるNドメイン(注5)と呼ばれる領域に注目して、この仕組みの解明に取り組みました。

 

【 研究成果】

木塚准教授らのこれまでの研究(https://www.gifu-u.ac.jp/about/publication/press/20180821.pdf)によって、GnT-Vの立体構造がわかっています(図2)。

GnT-Vには、糖鎖の枝分かれ構造を作る反応を触媒(注6)する部位の他に、働きが不明のNドメインと呼ばれる領域が存在しています。木塚准教授らは、NドメインがGnT-Vの働きにおいて果たす役割を明らかにすることを目的として研究を行い、以下のことを明らかにしました。

 まず、Nドメインの役割を明らかにするため、通常のGnT-Vと、Nドメインを持たないGnT-V(∆N)を細胞に導入し、細胞内でGnT-Vが作る糖鎖の枝分かれの量を調べました。細胞は、遺伝子組換えによってGnT-Vを欠損させたものを用いました。分析の結果、導入したGnT-Vと∆N自体は細胞中に同程度存在していましたが(図3A)、GnT-Vによってタンパク質の上に作られる糖鎖の分岐量は、通常のGnT-Vと比べて∆Nの方が少ないことがわかりました(図3B)。このことから、GnT-Vが細胞内でタンパク質の上に十分な糖鎖の枝分かれ構造を作るためには、Nドメインが必要であることがわかりました。

 次に、NドメインがないとなぜGnT-Vが十分に働けないかを調べるため、木塚准教授らは、様々な基質(注7)を用いてGnT-Vがその基質上に糖鎖の枝分かれ構造を作る能力(酵素活性)を測りました。基質として、糖鎖だけのもの2種類(図4、GnGnbi-PA、GnGnbi-Asn-PA)、糖鎖を持つ糖タンパク質(注8)3種類(α1AGP、transferrin、SOD3)、糖ペプチド(注9)1種類(SGP)を用いました。通常のGnT-Vは、程度は異なりますが、全ての基質に対して糖鎖を合成する活性を示しました。一方∆Nは、糖鎖や糖ペプチドといった小さなものに対しては、通常のGnT-Vと同等の活性を持つ一方で、糖タンパク質に対しては、3種類とも通常のGnT-Vに比べて活性が著しく低いことがわかりました(図4)。この結果から、Nドメインは、糖鎖の枝分かれ構造を作る活性そのものには無関係であるが、糖タンパク質という大きな基質の上の糖鎖への作用に不可欠であることがわかりました。細胞の中では、GnT-Vは遊離の糖鎖ではなく、糖タンパク質に対して本来作用することから、細胞の中で∆Nがタンパク質の上に作る糖鎖の量が少なかったのは、Nドメインがないことで、糖タンパク質に対する糖鎖合成の活性能が低下したためであると考えられました。

 最後に、Nドメインが糖タンパク質に対する糖鎖合成の活性にどのように関わるかを明らかにするため、GnT-Vと糖タンパク質のドッキングモデル(注10)を作りました(図5、この場合はα1AGPを例にしている)。その結果、GnT-Vの作用を受ける糖タンパク質とNドメインはやや離れた位置に存在していますが、Nドメインは可動性のループによって触媒領域とつながっているため運動性が高く、また糖タンパク質もその空間的位置がゆらぐことから、Nドメインは糖タンパク質と直接相互作用しうることがわかりました。

 

 

【今後の展開】

 本研究により、GnT-Vは、実際に糖鎖に枝分かれ構造を作る触媒領域の他に、Nドメインという直接的な触媒活性とは関係のない領域を使って、糖鎖合成を行う糖タンパク質かどうか選別していることが示されました。この知見は、GnT-VがNドメインによって基質糖タンパク質を直接認識し、それによって選ばれたタンパク質の糖鎖に作用することを示唆しています。一方、Nドメインがどのようなタンパク質を選ぶのか、その詳細はまだ明らかになっていません。今後、Nドメインが認識するタンパク質がわかれば、GnT-Vがタンパク質を選んで糖鎖を作る仕組みがさらに解明されると期待されます。また、本研究は、糖鎖一般においてまだ未解明である、「なぜタンパク質ごとに異なる糖鎖がつくのか」、という疑問を考える上で重要な知見を与えるとともに、糖鎖が関わるがんの発症・悪性化の仕組みの解明に貢献すると期待されます。

 

【論文情報】

雑誌名:The Journal of Biological Chemistry

タイトル:N-Acetylglucosaminyltransferase-V requires a specific non-catalytic luminal domain for its activity toward glycoprotein substrates

著者:Reina F. Osuka, Tetsuya Hirata, Masamichi Nagae, Miyako Nakano, Hiroyuki Shibata, Ryo Okamoto, Yasuhiko Kizuka

DOI番号:10.1016/j.jbc.2022.101666

論文公開URL:https://www.jbc.org/article/S0021-9258(22)00106-5/fulltext

 

【用語解説】

(注1)糖鎖:グルコース(ブドウ糖)などの糖が鎖状につながった物質。遊離の状態で存在するものもあれば、タンパク質や脂質に結合した状態のものもある。デンプン、グリコーゲンなどの多糖は数多くの糖がつながり、糖鎖だけで遊離の状態で存在する。一方タンパク質に結合したものは、数個から20個程度の糖がつながったものが多い。

(注2)バイオマーカー:血液中などにおける存在量が疾患の有無や進行度の指標となるような生体物質。糖鎖も、がんなどのバイオマーカーとして用いられる。

(注3)糖転移酵素:糖鎖を合成する酵素のことで、ヒトでは180種類程度存在することが知られている。主に、細胞の中のゴルジ体と呼ばれる小器官に存在している。

(注4)GnT-V:糖鎖を合成する酵素(糖転移酵素)の一つで、細胞の中に存在し、β1,6分岐という糖鎖の枝分かれ構造を作る。

(注5)Nドメイン:ドメインとは、タンパク質の構造の一部のうち、他の部分とは独立して折り畳まれた領域のこと。一般にタンパク質は複数のドメインからなる。GnT-VのNドメインは、触媒領域のN末端側に存在するドメインである。

(注6)触媒:化学反応の速度を高める物質のこと。触媒自身は反応前後では変化しない。酵素は生体内の様々な反応を触媒するタンパク質である。

(注7)基質:化学反応における出発物質のこと。反対に、化学反応の結果できるものを生成物と言う。酵素は、自身が触媒する反応において、特定の構造を持った基質を厳密に認識することから、基質と酵素は鍵と鍵穴の関係に例えられる。

(注8)糖タンパク質:糖鎖が結合したタンパク質のこと。

(注9)糖ペプチド:糖鎖が結合したペプチドのこと。ペプチドとは、アミノ酸がつながったもので、一般にアミノ酸数個から数十個程度からなる短いものである。タンパク質(ポリペプチドとも呼ばれる)もアミノ酸がつながったものであるが、ペプチドより長く、特定の三次元構造をとっている。

(注10)ドッキングモデル:タンパク質とそれに結合する分子など、相互作用する複数の分子の立体的な配置や親和性を計算などにより予測すること。

 

【研究者情報】

木塚 康彦(きづか やすひこ):論文責任著者

岐阜大学糖鎖生命コア研究所糖鎖分子科学研究センター 准教授(センター長)

 

大須賀 玲奈 (おおすか れいな):論文筆頭著者

岐阜大学大学院自然科学技術研究科 1年生

名古屋大学卓越大学院プログラム「CIBoG」履修生

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