PET(難分解性プラスチック)分解酵素の、麹菌による効率的な生産に成功

奈良先端科学技術大学院大学 × 月桂冠総合研究所

月桂冠

2022年3月9日

奈良先端科学技術大学院大学

月桂冠株式会社

国立大学法人奈良先端科学技術大学院大学(学長・塩﨑一裕、奈良県生駒市)の吉田昭介特任准教授(所属:研究推進機構/先端科学技術研究科バイオサイエンス領域)と、月桂冠株式会社(社長・大倉治彦、本社・京都市伏見区)総合研究所は共同研究により、日本酒などの製造に用いられる麹菌を用いてPET1)分解酵素2)の遺伝子を発現させ、その酵素の生産に成功しました。今回の研究成果は、「麹菌Aspergillus oryzaeによるPET分解酵素の異種発現」と題して、2022年度日本農芸化学会大会(会期2022年3月15日~18日)で発表します。

 

●麹菌でのPET分解酵素の遺伝子発現と分解酵素生産の検証

ペットボトルなどに用いられるPET樹脂は難分解性プラスチックの一つであり、マイクロプラスチック問題などの環境汚染を引き起こす要因となっています。また、一部で実用化されているPETリサイクル技術は環境負荷が高いことが課題となっていることから、解決策としてより環境負荷の少ないプラスチックの循環技術(PETの原料物質にまで酵素分解し、再度PET樹脂の原料として利用する)が注目されています。近年、国内外で実用化に向けた研究が行われており、奈良先端大の吉田昭介特任准教授らの研究グループでは2016年、PET分解酵素をもつ微生物を発見したことを報告し2)、その分解酵素を合成して作る遺伝子の特定に成功しています。このPET分解酵素の高機能化や反応条件の改善などの研究成果を活用し、さらに発展させるため、今回、奈良先端大と月桂冠が共同で、PET分解酵素の生産を検討しました。月桂冠では麹菌を用いたタンパク質の大量生産を研究をしてきたことから酵素の生産を、奈良先端大では生産された酵素の評価を、それぞれ担当しました。PET分解酵素を合成する遺伝子を工夫することで、正常なmRNA(メッセンジャーRNA、タンパク質合成の場へ遺伝情報を伝令する役割を持つ)を形成させ3)、その結果、麹菌によりPET分解酵素を生産することに成功しました。今後、実際にPETを原料にまで分解できるか、検討を進める予定です。

 

1:PETとはPolyethylene terephthalateをさし、PETは原料物質であるエチレングリコールとテレフタル酸から合成され、これらが無数に重合したもの。飲料のボトル(いわゆるPETボトル)のほか、衣服の原料としても用いられている。

2:新種として発見された細菌Ideonella sakaiensis 201-F6株は、2種の分解酵素(PETaseとMHETase)によりPETを分解する。PETaseはPETをモノヒドロキシエチルテレフタレート(以下・MHET、エチレングリコールとテレフタル酸が1分子ずつ結合した物質)に分解、MHETaseはさらにMHETをエチレングリコールとテレフタル酸までに分解する。2016年に米国科学雑誌「Science」に掲載。

3:麹菌などの真核微生物には、スプライシングやpolyA付加などの自己遺伝子により正常なmRNAを形成させる機能がある。一方で、この機能を使って麹菌以外の異種生物由来遺伝子のmRNAを異常RNA化することでタンパク質生産抑制・自己防衛を行うことができる。

 

●学会での発表

学会名:2022年度日本農芸化学会大会(主催:公益社団法人日本農芸化学会)

日時:2022年3月15~18日

会場:オンラインで開催

演題:麹菌Aspergillus oryzaeによるPET分解酵素の異種発現

発表者:○戸所健彦1,伊出健太郎1,南はつね2,河野恵美2, 小高敦史1,吉田昭介2,石田博樹1(1月桂冠・総研, 2奈良先端大)(○印は演者)

 

●国立大学法人奈良先端科学技術大学院大学

先端科学技術の基盤となる情報科学、バイオサイエンス及び物質創成科学の研究領域に加え、これらの融合領域において世界レベルの先進的な研究を推進し、更なる深化と融合、そして新たな研究領域の開拓を進めています。

最先端の研究成果に基づく体系的な教育を通じて、世界と未来の問題解決や先端科学技術の新たな展開を担う「挑戦性、総合性、融合性、国際性」を持った人材を育成し、もって科学技術の進歩と社会の発展に貢献します(学長=塩﨑一裕、所在地=〒630-0192 奈良県生駒市高山町8916番地の5)。

 

●月桂冠総合研究所

1909(明治42)年、11代目の当主・大倉恒吉が、酒造りに科学技術を導入する必要性から業界に先駆けて設立した「大倉酒造研究所」が前身。1990(平成2)年、名称を「月桂冠総合研究所」とし、現在では、酒造り全般の基礎研究、バイオテクノロジーによる新規技術の開発、製品開発まで、幅広い研究に取り組んでいます(所長=石田博樹、所在地=〒612-8385 京都市伏見区下鳥羽小柳町101番地)。

 

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