形状と状態の同時最適設計により金属3Dプリンティングの 残留変形を低減させる手法を開発
熱変形の影響を大きく受ける大型構造物の成形へと活用されることに期待
詳細は 早稲田大学Webサイト をご覧ください
発表のポイント
◆近年注目されているレーザー粉末床溶融式の金属3Dプリンティングにおいては、成形品が残留変形により大きく反るという問題点がある。
◆今回の研究により、ラティスの粗密分布とレーザー走査方向を最適に決定することで残留変形を低減させる手法を開発した。
◆本手法は、熱変形の影響を大きく受ける大型構造物の成形に活用されることが期待される。
早稲田大学理工学術院基幹理工学部の竹澤晃弘(たけざわ あきひろ)教授、同学基幹理工学研究科博士後期課程のGuo Honghu(グオ ホング)、同学基幹理工学部卒業生の小林凌太朗(こばやし りょうたろう)、およびUniversity of PittsburgのQian Chen博士、Albert C. To教授による研究グループは、近年注目されているレーザー粉末床溶融式の金属3Dプリンティング(以下、「金属3Dプリンティング」とする。)において、ラティスの粗密分布とレーザー走査方向を最適に決定することで残留変形を低減させる手法を開発しました。本研究の成果により、金属3Dプリンティングにおいて課題となっていた、成形品が大きく反るという問題点の大幅な解消が期待できます。
本研究成果は、2022年10月13日(木)<現地時間>にオランダELSEVIER社発行のジャーナル『Additive Manufacturing』(論文名:Simultaneous optimization of hatching orientations and lattice density distribution for residual warpage reduction in laser powder bed fusion considering layerwise residual stress stacking)にオンライン版が掲載されました。
【研究の背景と目的】
近年、次世代の加工技術として金属3Dプリンティングが注目を集めており、試作のみならず量産最終製品にも使用されるようになっています。しかし、金属3Dプリンティングには成形品の残留変形という大きな問題点があります。最も普及している金属積層造形法であるレーザー式粉末床溶融法では、薄く敷き詰めた金属粉をレーザーで溶融凝固させるというプロセスを繰り返し、三次元構造を形成しますが、溶融凝固した箇所には大きな収縮残留応力が生じそれが反りの原因となります(図1参照)。また、この収縮残留応力はレーザーの走査方向(※1)に大きく、その直角方向には小さくなるという局所的な異方性を示します。
このような残留変形の対策としては、造形時に予備加熱をして溶融時と冷却時の温度差を小さくするというハードウェア的アプローチの他に、レーザーの走査方向を工夫することにより上図に示す残留応力の局所的な異方性を活用するアプローチ、造形対象の形状を工夫することで全体の変形をコントロールするアプローチの三つがあります。
※1 金属3Dプリンタで作成した試験片の残留変形とその発生メカニズム
本研究グループでは、造形対象の形状を工夫することで熱変形を低減する手法、また、レーザーパスを工夫することで熱変形を低減する手法についてそれぞれ研究してきました。今回の研究では、造形対象の内部にラティス構造(※2)と呼ばれる中空構造を最適に形成しつつ、最適なレーザーパスで造形することにより、金属3Dプリンタ成形品の残留変形を低減することに成功しました。つまり、今回の研究において初めて、造形品の形状と状態を同時に最適化することを可能としました。
図2はコネクティングロッドを題材に、5層の最適なラティス構造を内部に形成し、最適なレーザー走査方向で造形を行った例です。反り変形は造形物上部の残留応力が下部より大きくなることで起こりますが、最上部のラティスが低密度になることで応力を低減しつつ、高密度なラティスがアーチ型に配置されることで反り変形に対する剛性が高められています。また、レーザー走査方向は下層で部品の長手方向を向き、上のレイヤーでは短手方向を向く傾向があります。これはすなわち、部品の長手方向の残留応力が下層では強くなり、上層では弱くなることを意味し、明らかに反り変形を抑制します。均一なラティスと均一なレーザー走査方向で造形した試験片と比較し、反り量は20.7%低減されました。先行研究(※3)で内部ラティス構造のみを最適化した類似の例題では6.0%の低減でしたので、レーザー走査方向最適化により抑制効果が大幅に向上したことがわかります。
図2 残留変形低減のための(a)最適内部ラティス構造と(b)造形した試験片、(c)最適レーザー走査方向
【そのために新しく開発した手法】
金属3Dプリンティングの残留変形を近似的に求める手法として、固有ひずみ法が提案されています。本来、固有ひずみ法は日本の造船分野で開発された溶接変形を近似的に導出する手法ですが、近年金属3Dプリンティング用に盛んに改造が進められています。本研究では、最適化に用いることを前提に、漸化式で表現した新たなシンプルな固有ひずみ法を開発しました。更に、良く知られているトポロジー最適化(※4)のアルゴリズムを活用し、残留変形の低減を目的としてラティスの粗密分布とレーザー走査方向を最適に決定する手法を開発しました。
【研究の波及効果や社会的影影響】
近年、金属3Dプリンティング技術の向上により造形品の大型化が可能になり、米国ではロケットノズルの一体成型等も試みられています。しかし、成形品が大型化されるほど残留変形は深刻になるため、本研究のような残留変形低減技術の重要性も高まります。本研究は、内部ラティス構造という造形品の形状と、造形品の局所的な応力という状態を同時に最適化することで、反り変形の低減を実現するものであり、成形品の大型化の実現をより現実的なものとしたと言えます。
【用語解説】
※1 レーザーの走査方向
レーザー粉末床溶融式の金属3Dプリンティングではレーザーで金属粉末を層ごとに溶融凝固させて三次元形状を造形する。すなわち、レーザーは各層において面を塗りつぶすような動きをし、レーザー走査方向とはその際にレーザーが走る方向を意味する。
※2 ラティス構造
3Dプリンタで作成する、内部に空孔を設けた構造のこと。空孔を任意に分布させることにより、様々な特性を実現できる。
※3 先行研究
雑誌名:Additive Manufacturing(オランダ・エルゼビア社)
論文名:Optimally Variable Density Lattice to Reduce Warping Thermal Distortion of Laser Powder Bed Fusion.
執筆者名(所属機関名):竹澤 晃弘(早稲田大学)、Qian Chen(ピッツバーグ大学、米国)、Albert C. To(ピッツバーグ大学、米国)
掲載日:2021年11月6日
掲載URL:https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2214860421005741
DOI:https://doi.org/10.1016/j.addma.2021.102422
※4 トポロジー最適化
数値計算により最適な形を自動で導出する構造最適化法の一種。
【論文情報】
雑誌名:Additive Manufacturing(オランダ・エルゼビア社)
執筆者名(所属機関名):竹澤 晃弘 (早稲田大学理工学術院 教授)、
Guo Honghu (早稲田大学基幹理工学研究科 博士後期課程)、
小林 凌太朗 (早稲田大学基幹理工学部 卒業生)、
Qian Chen(University of Pittsburgh,博士後期課程 卒業生)、
Albert C. To(University of Pittsburgh教授)
掲載日:2022年10月13日(木)<現地時間>
掲載URL:https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2214860422005838?via%3Dihub
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