岐阜県長良川中流域の気候変動に伴う水害リスク変化を定量的に評価しました

- 気候変動による水害リスク予測および社会影響に関する共同研究 -

岐阜大学

2023年3月30日

国立大学法人東海国立大学機構 岐阜大学

SOMPOインスティチュート・プラス株式会社

 

岐阜県長良川中流域の気候変動に伴う水害リスク変化を定量的に評価しました - 気候変動による水害リスク予測および社会影響に関する共同研究 -

 

 国立大学法人東海国立大学機構 岐阜大学(所在地:岐阜県岐阜市 岐阜大学長:吉田 和弘、以下「岐阜大学」)とSOMPOインスティチュート・プラス株式会社(本社:東京都新宿区 取締役社長:司波 卓、以下「SI+」)は、2022年4月から、気候変動による水害リスク予測および社会影響に関する共同研究に取り組んでいます。研究の結果、気候変動に伴い、長良川中流域の水害リスクは大きく変化すると予測され、その変化にはいくつかの特徴が見いだされることがわかりました。

 

1.背景

 気候変動による自然災害の影響は地域によって異なり、少子高齢化など社会環境の変化と合わせて、長期的な予測に基づく地域課題の解決が求められています。本研究では、一級河川である長良川の中流域を対象に、気候変動による洪水ハザードの変化予測とその影響の定量的な評価に取り組んでいます。

 このうち、洪水ハザードの変化予測に関しては、現行の洪水ハザードマップが抱える問題点への対応が求められています。洪水ハザードマップは、堤防のさまざまな箇所から氾濫が起きた場合でも想定の域を超えることがないよう、個々の箇所からの氾濫・浸水の解析結果をすべて重ね合わせて作られています。このため、現実に起きる洪水に比べて氾濫・浸水域が広範に及ぶ傾向があり、自治体によっては、市街地の大部分が洪水浸水想定区域となってしまうことから、真にリスクの高い地域がわかりにくいという短所があります。そこで、国では、水害リスクマップ等による浸水頻度の見える化を進めていますが、堤防のさまざまな箇所で氾濫が起きるとの想定に変わりはなく、課題が残っています。

 また、気候変動による社会への影響の定量的な評価については、立地適正化計画への防災指針制度の導入(令和2年)や気候変動適応法に基づく地域気候変動適応計画の策定、国が主導する流域治水の推進、企業等での物理的リスクの分析機会の増加などが背景となり、関心が高まっているとみられます。しかしながら、気候変動による洪水ハザードの変化予測からその社会影響の評価までを一貫して、かつ、広い範囲で定量的に評価する取り組みは数少ないのが現状です 1

 

2.研究結果の概要

(1)洪水ハザードの変化予測

 岐阜大学では、d4PDF 2 の降雨データ(過去実験3,000年分、2℃上昇実験3,294年分)を用いて、洪水流出解析を行い、岐阜市忠節基準点における時刻流量から、年最大流量が発生した前後48時間の流量の変化を解析し、年最大となる洪水と流量の時間変化(洪水波形)を抽出しました(図表1)。

 

図表1 洪水流出解析結果から予測される様々な洪水波形(於岐阜市忠節基準点)

(左)過去実験(現在気候)(右)2℃上昇実験(2℃上昇時)

 

 抽出された年最大の洪水の中から、年平均超過確率1/50、1/100、1/200に相当する洪水波形を各5ケース(計15ケース)抽出した結果、①2℃上昇下では、洪水波形のピーク流量が1.08倍に増加すること、②河川整備の基本となる河川流量(計画高水流量)を超える時間が長くなること、③同じピーク流量でも様々な洪水波形があることが確認されました(図表2)。なお、本研究では、岐阜市付近の河川流量が計画高水流量以上になる場合、岐阜市の上流河川区間でも氾濫が生じて下流側の河川流量が調節される可能性を考慮した流量補正 3 を行っていることなどから、今回確認された2℃上昇に伴う河川流量の変化倍率(①の1.08倍)は一般的に知られる値(約1.2倍) 4 より小さな値となっています。

 

図表2 発生確率がほぼ100年に1回となる5つの洪水波形-現在気候下と2℃上昇下での違い-

           現在気候下                   2℃上昇下

 

 次に、抽出された洪水波形ごとに、河川からの氾濫・浸水解析を行いました。本研究では、上記したハザードマップの抱える問題点を踏まえて、河川堤防の中でも決壊の危険性が高いと考えられる重要水防箇所(重点区間)を2箇所抽出し、そこからの氾濫を想定して、現在気候下と2℃上昇下での氾濫・浸水の違いを解析しました。58ケースの氾濫・浸水解析の結果、同じピーク流量でも洪水波形の違いによって、氾濫・浸水域の面積や最大浸水深が大きく変わることを確認しました(図表3)。

 

図表3 洪水波形の違いによる氾濫・浸水域の違い(面積が最小・平均・最大の3ケース)

(2℃上昇下にて100年に1回の発生確率の洪水で右岸の重要水防箇所から氾濫した場合)


(2)洪水ハザードの変化による社会影響の定量的な評価

 SI+では、58の氾濫・浸水解析結果のそれぞれについて、氾濫・浸水域内の人口、世帯数、年齢構成、家屋等資産への直接被害額 5 などの影響を、高解像度で定量的に推計しました 6

 その結果、長良川中流域の重要水防箇所からの氾濫・浸水を想定した場合、2℃上昇に伴う社会影響の変化には、注目すべき特徴があることがわかりました(①~③:図表4、④:図表5)。

 

①氾濫域が右岸の場合と左岸の場合で氾濫・浸水のパターンや影響変化の度合いが大きく異なる

②2℃上昇に伴う被害額の変化倍率は、ピーク流量や面積の変化倍率に比べて大幅に高い

③2℃上昇に伴う影響は、低頻度(1/200)の洪水よりも高頻度(1/50)の洪水でより顕著に表れる

④高浸水深の想定域では“2℃上昇の影響”と“高齢化の影響”が相乗し、高齢人口が大幅に増える

 

図表4 気候変動に伴う影響の大きさの変化倍率(2℃上昇下/現在気候下)

    右岸の重要水防箇所から氾濫した場合  左岸の重要水防箇所から氾濫した場合 

                   ↑ 

河川のピーク流量は2℃上昇に伴い1.08倍に増加するが、被害額は1.6~2.5倍へと大きく増加する

 

図表5 浸水深別の現在人口と2℃上昇+将来人口(右岸の重要水防箇所から氾濫した場合)

(左)2℃上昇に伴う増と将来の人口減が相殺   (右)浸水深が大きい地域の高齢人口は、2℃上昇に

                        伴う増と将来の高齢化による増が相乗し、大幅に増加

 

 また、求めた直接被害額をもとに経済被害額を推計しました。その結果、右岸の重要水防箇所からの氾濫の場合、年当たりの平均被害額は現在気候が続くと30億円/年、2℃上昇すると57億円/年となり、約1.9倍に増加するとみられます。この結果から今後50年間の総被害額を割引率4%で求めると、現在気候が続く場合は684億円ですが、2℃上昇の時期を2075年とした場合は879億円、同じく2050年とした場合は1,007億円と推計されます。これらは、気候変動適応策を実施した場合に期待される年平均被害軽減額や便益の一部に相当し、適応策の費用対効果を考える際の目安になると考えられます。

 

3.今後について

 今回の結果をもとに、2℃上昇に伴う洪水波形の変化の詳細や気候変動適応策の具体的なメニューとコストの検討など、中長期的なまちづくりと気候変動適応策のベストミックスに向けて、さらに共同研究を進めてまいります。

 

                                      以  上

 

1:企業が気候変動リスク対応として自らの事業所・工場等の物理的リスクを予測・評価するケースは増えているが、今回のような数km2~数十km2という広範囲の浸水・氾濫解析と被害算定を同時に行うケースは少ない。

2:「d4PDFとは」< https://www.miroc-gcm.jp/d4PDF/about.html >

3:補正前流量Q≧7700の場合、補正後流量Q’=7700+0.60(Q-7700) (原田ら2022)

4: 国土交通省「「流域治水」の基本的な考え方」p7 < https://www.mlit.go.jp/river/kasen/suisin/pdf/01_kangaekata.pdf >

5:直接被害額のうち、建物・家屋資産、家庭用品・自動車、事業所償却資産・在庫資産について推計を行った。

6:影響の大きさの比較では、人口や被害額等の影響を洪水波形ごとに求め、それらの平均値を用いた。

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プレスリリース添付画像

図表1 洪水流出解析結果から予測される様々な洪水波形(於岐阜市忠節基準点)

図表2 発生確率がほぼ100年に1回となる5つの洪水波形-現在気候下と2℃上昇下での違い-

図表3 洪水波形の違いによる氾濫・浸水域の違い(面積が最小・平均・最大の3ケース)

図表4 気候変動に伴う影響の大きさの変化倍率(2℃上昇下/現在気候下)

図表5 浸水深別の現在人口と2℃上昇+将来人口(右岸の重要水防箇所から氾濫した場合)

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