骨肉腫の「肺転移」を抑制するメカニズムを解明:骨肉腫の新規治療標的を発見

岐阜大学

2026年7月16日

岐阜大学

骨肉腫の「肺転移」を抑制するメカニズムを解明 骨肉腫の新規治療標的を発見

 

 

本研究のポイント

・骨肉腫は小児および若年者に最も多い悪性骨腫瘍で、肺転移が患者の予後を大きく左右します。

・本研究では、まずマウス骨肉腫モデルを用いて肺転移のプロセスを解明し、その結果がヒト骨肉腫細胞や患者由来の腫瘍組織にも当てはまることを検証しました。

・マウス骨肉腫細胞では「乳酸脱水素酵素A(LDHA)(注1)」を作る量を減らすと、肺転移を抑制することを発見しました。

・LDHAはヘッジホッグシグナル(注2)という細胞間の情報伝達システムを介して骨肉腫細胞の移動(遊走・浸潤)を高め、その結果として肺へのがんの転移(注3)を促進することを明らかにしました。

・臨床で使用されるヘッジホッグ阻害薬「ビスモデギブ(注4)」はマウスモデルにおいて遊走・浸潤、そして肺転移を抑制することを確認しました。

・ヒト骨肉腫細胞および患者由来臨床検体においてもLDHA-ヘッジホッグ伝達経路との関連が確認され、マウスの転移プロセスがヒトの骨肉腫にも関係している可能性が示されました。

・本研究は、LDHA-ヘッジホッグ伝達経路が骨肉腫の肺転移の新たな創薬標的として、そして肺転移のバイオマーカー(注5)や患者層別化研究の基盤となる成果です。

 

本研究の概要図

 

 

研究概要

 岐阜大学大学院医学系研究科整形外科学の秋山治彦教授、河村真吾講師、槇利衣大学院生らの研究グループは、愛媛大学との共同研究で、解糖系の代謝酵素である「乳酸脱水素酵素A(LDHA)」の抑制が骨肉腫の肺転移を抑制することを新たに発見しました。

 骨肉腫は小児・若年者に多く発症する悪性骨腫瘍であり、肺に転移すると予後が不良となります。本研究では、解糖系酵素である乳酸脱水素酵素A(LDHA)に着目し、骨肉腫の肺転移における役割を詳しく調べました。

 その結果、マウス骨肉腫細胞においてLDHAの発現を抑制すると、がんの転移プロセスである細胞の遊走および浸潤能が低下しました。また、マウス肺転移モデルではLDHA抑制により肺への転移が有意に抑制されました。その背景に、LDHAが制御する下流経路として「ヘッジホッグシグナル」が関与していることを特定しました。この検証実験を行ったところ、LDHAの発現抑制に伴いヘッジホッグシグナル関連分子の発現が低下することを確認しました。

 さらに、ヘッジホッグ阻害薬「ビスモデギブ」を用いた実験では、骨肉腫細胞の遊走・浸潤を抑制するとともに、マウス肺転移モデルにおいても肺への転移が抑制されました。

 ヒト骨肉腫細胞と患者由来骨肉腫検体においてもLDHAとヘッジホッグシグナル関連分子の発現に相関が認められました。そして、ヒト骨肉腫細胞においても、LDHAの発現抑制によりヘッジホッグシグナル活性および遊走・浸潤能の低下が確認されました。

 これらの結果から、マウスと同様にヒト骨肉腫においても、LDHAはヘッジホッグシグナルの上流で機能し、骨肉腫細胞の遊走・浸潤を促進することが示されました。これらの結果は、LDHA-ヘッジホッグシグナル伝達がヒト骨肉腫の肺転移にも関与する可能性を示唆しています。

 本研究は、LDHA-ヘッジホッグ伝達経路を骨肉腫肺転移の新たな創薬標的として、マウスでの知見をヒト疾患へ外挿できる可能性を示しています。

 本研究成果は、現地時間2026年6月25日にCancer Research Communications誌のオンライン版で発表されました。

 

 

研究背景

 骨肉腫は、主に小児および若年者に多く発症する原発性悪性骨腫瘍であり、標準治療の進歩により、5年生存率は約70%に向上しました。しかし、患者の15~20%は診断時に肺転移を有しており、転移性または再発性の疾患を有する患者の予後は不良で、5年生存率は約20%にとどまっています。肺転移の予防は骨肉腫治療において極めて重要であり、転移を抑制する新たな治療法開発が喫緊の課題となっています。

 

 

研究成果

 本研究では、マウス骨肉腫細胞に対する解糖系酵素である乳酸脱水素酵素A(LDHA)阻害の影響を検討した結果、LDHAの発現低下は原発性骨肉腫の増殖には影響を与えないものの、骨肉腫の肺転移を抑制することがわかりました(図1)。さらに、臨床で使用されているヘッジホッグシグナル伝達阻害薬ビスモデギブの骨肉腫の肺転移に対する抑制効果をマウスモデルで示し、ドラッグリポジショニング研究へ発展する可能性を示しました(図2)。

 患者由来骨肉腫検体においてもヘッジホッグシグナル関連分子の発現に関連性が認められ(図3)、ヒト骨肉腫細胞ではLDHA発現の低下により、その遊走・浸潤能が抑制されました(図4)。これらの結果は、マウスモデルで見いだされたLDHA-ヘッジホッグシグナル伝達がヒト骨肉腫においても機能する可能性を示しています。

 

図1. LDHA発現低下(shLdha)はマウス骨肉腫の肺転移を阻害する

 

 

 

図2. ヘッジホッグシグナル伝達阻害薬ビスモデギブはマウスモデルで骨肉腫の肺転移を抑制する

 

 

図3. 患者由来骨肉腫検体においてもヘッジホッグシグナルの関与が示唆される

 

 

図4. LDHAの発現低下(shLdha)は、ヒト骨肉腫細胞の遊走と浸潤を阻害する

 

 

今後の展開

 今後は、LDHAがヘッジホッグシグナルを制御する分子機構を明らかにするとともに、その制御機構と骨肉腫の遊走・浸潤および肺転移との関連性を検証することが重要です。また、LDHAやヘッジホッグシグナル関連分子のバイオマーカーとしての意義や既存のヘッジホッグ阻害薬を用いた治療薬開発の妥当性を検証することによって、骨肉腫の肺転移に対する新たな治療法の創出が期待されます。

 

 

用語解説

(注1) 乳酸脱水素酵素A (LDHA)

細胞がエネルギーをつくる際に働く酵素の一つで、糖を分解して乳酸をつくる過程(解糖系)を助けています。がん細胞ではLDHAが過剰に働くことが多く、がん細胞の増殖や生存、転移に関与することが知られています。

 

(注2) ヘッジホッグシグナル

胎児の発生や組織の形成を調節する細胞間の情報伝達システムです。通常は発生時に重要な働きをしますが、がんでは異常に活性化し、がん細胞の増殖や転移を促進することがあります。

 

(注3) がんの転移

がん細胞は周囲へ移動する「遊走」と組織へ入り込む「浸潤」の能力を獲得し、血液やリンパ管を介して遠くの臓器へ広がります。このように別の臓器で新たな腫瘍を形成する現象が「転移」であり、多くのがん患者さんの予後に大きく影響します。

 

(注4) ビスモデギブ(Vismodegib)

ヘッジホッグシグナルという細胞の増殖や発達を調節する仕組みを抑える薬です。一部のがんではこのシグナルが過剰に働いているため、その働きを抑えてがんの進行を防ぐことを目的として使用されます。

 

(注5) バイオマーカー(生物学的指標)

病気の有無や進行度、治療に対する反応などを客観的に測定・評価できる「体内のサイン(目印)」のことです。血液、尿、遺伝子、タンパク質など、体内の様々な物質や状態がこれに該当します。

 

 

論文情報

雑誌名:Cancer Research Communications

論文タイトル:Ldha Regulates Osteosarcoma Lung Metastasis through Hedgehog Signaling

著者:Rie Maki, Shingo Komura, Akihito Nagano, Ayumi Niwa, Hiroyuki Tomita, Yuuki Imai, Haruhiko Akiyama

DOI: 10.1158/2767-9764.CRC-25-0163

 

 

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プレスリリース添付画像

本研究の概要図

図1

図2

図3

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  • 名称 国立大学法人東海国立大学機構岐阜大学
  • 所在地 岐阜県
  • 業種 大学
  • URL https://www.gifu-u.ac.jp/

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