国際会議「モルディブの気候変動に適応したインフラ整備 -人工島<フルマーレ>への国内移住-」を開催

〜環礁国の海面上昇適応策を議論〜

日本GIF

2023年5月25日

人工島「フルマーレ」 (C)HDC

 

 公益財団法人日本グローバル・インフラストラクチャー研究財団(所在地:東京都港区、理事長:中島治男、略称:日本GIF)は、公益財団法人笹川平和財団、東北大学災害科学国際研究所との共催により、4月4日(火)、大阪公立大学杉本図書館にて、国際地理学会のテーマ別会議である「IGU-TC大阪2023」のサイドイベントとして、国際会議「モルディブの気候変動に適応したインフラ整備-人工島<フルマーレ>への国内移住-」(原題:Infrastructure development in Maldives to cope with climate change –In-country migration to newly constructed island of Hulhumalé)を開催しました。

 

環礁国の海面上昇適応策

 国土の全てがサンゴ礁で出来ている環礁国(キリバス共和国、モルディブ共和国〈以下モルディブ〉、マーシャル諸島共和国、ツバル)は、気候変動による海面上昇により、海岸浸食や越水、河川や地下帯水層への塩水侵入など様々なリスクに晒されており、国土消失の危機に直面しています。全世界で、2050年までに最大12億人が気候変動難民となる可能性があると警告されており、対策として、一部の国では国民の先進国あるいは他の島嶼国への移住が進んでいます。

 一方、これらの国民には「残る権利」、つまり海外に移住するのではなく、母国に留まる権利もあると考えられます。国土の平均標高が約1メートルと、環礁国の中で最も低いモルディブでは、首都マレに隣接する環礁を埋め立てた人工島<フルマーレ>を建設し、国民の移住が進んでいます。

 

モルディブの人工島<フルマーレ>

 フルマーレは、広さ約4キロ㎡。環礁の内側に海底から浚渫した砂を積み上げて建設されており、平均標高は約2mあるため、今後100年間の海面上昇に耐えられるとされています。2004年から移住が始まり、現在約5万人が生活しています。2050年頃までに、首都マレの現人口の2倍近く、国全体の約3分の2にあたる24万人が住めるようにする大プロジェクトです。マレの人口は約14万人、人口密度が高く、住環境の悪化、恒常的な交通渋滞等の問題を抱えています。フルマーレはこれらの問題を解決するために建設されました。

 島内は、緑豊かな自然と共生できる空間に、クリーンな空気、充実した商業施設、スポーツやイベントを楽しめる場所と、快適な住空間が整えられています。首都マレからのアクセスも良く、住民は先端のスマートサービスを受けることが出来ます。また、モルディブ政府は新しく造成した土地を利用して、高付加価値の産業を振興しています。

 

<フルマーレ>移住調査

 日本GIFは、Housing Development Corporation Limited(モルディブの住宅開発公社、略称HDC)と東北大学と共同で、2022年の8月から9月にかけ、フルマーレに移住した人を対象にアンケートを実施し、移住した人達がフルマーレでの生活をどのように評価しているかを調査しました。調査の結果、清潔な新居、大気・水質汚染がないこと、整備されたインフラ、自然災害に強い、スポーツ施設や公園等の項目が、概ね高く評価されていることがわかりました。

 一方で、住民の移住理由は海面上昇よりも、より都会的な生活や快適な生活環境であることも見て取れました。

 

国際会議「モルディブの気候変動に対応したインフラ整備」開催

 モルディブの人工島フルマーレを事例に、環礁国の海面上昇適応策としてのインフラ開発を検討するため、日本GIF、公益財団法人笹川平和財団、東北大学災害科学国際研究所は、「IGU-TC大阪2023」のサイドイベントとして、国際会議「モルディブの気候変動に対応したインフラ整備-人工島<フルマーレ>への国内移住-」を開催しました。

 会議には、日本GIFが実施したアンケート調査を支援したHDC職員2名を招聘し、環礁国の気候変動に起因する海面上昇適応策としてのインフラ建設(人工島の可能性)と、そこへの移住の円滑化について討論しました。各国の専門家を招いたパネルディスカッションでは、人工島のプロジェクトファイナンス、建設の技術的問題、低所得者の移住・住居取得支援、移住理由、スマートシティ化、島内交通、ごみ処理、移住前居住地の空き家問題、人口急増後の環境の維持、雇用対策、海面上昇対策として必要なスペック、エネルギー供給、高齢者対策などについてディスカッションを行いました。

 

日本GIFの取り組み

 日本GIFは、2021年からモルディブの気候変動に適応するためのインフラであるフルマーレに着目し、調査研究に取り組んで参りました。他の環礁国の海面上昇の危機に晒される人々の選択肢の一つとして、人工島建設・移住の可能性を、フルマーレを事例に検討しています。

 

 この度の会議を終えて、専務理事の中山幹康は「環礁国の人々は、気候変動による海面上昇適応策として、『他国に移住する権利』と同時に『自国に留まる権利』を持っているという考え方が、国際的に広まっています。日本GIFは、『自国に留まる権利』を具体化したモルディブの人工島<フルマーレ>に以前から着目していました。<フルマーレ>への国内移住は、他の環礁国が気候変動適応策を選択する際に貴重な示唆となる事例です」とコメントしています。

 

 

会議の概要は以下の通りです。

 

国際会議概要

 

会議名称 :「モルディブの気候変動に適応したインフラ整備 -人工島<フルマーレ>への国内移住-」

(原題:Infrastructure development in Maldives to cope with climate change –In-country migration to newly constructed island of Hulhumalé)

 

共  催 :公益財団法人日本グローバル・インフラストラクチャー研究財団 (日本GIF)
     公益財団法人笹川平和財団、東北大学災害科学国際研究所

 

日  時: 2023年4月4日(火)18:10〜19:20

 

開催場所 :大阪公立大学杉本図書館

 

会議の進行と登壇者:

●開会挨拶

中山 幹康(日本GIF専務理事)

●プレゼンテーション

マリヤム・アリーシャ・アーメド(HDC)

アイシャス・ライラ(HDC)

●調査報告

佐々木大輔(東北大学准教授)

坂本晶子(日本GIF事務局長)

●パネルディスカッション

・モデレーター

前川美湖(笹川平和財団シニアリサーチフェロー)

・パネリスト

マリヤム・アリーシャ・アーメド(HDC)

カール・ブルック(環境法研究所上級弁護士)

藤倉 良(法政大学教授)

アイシャス・ライラ(HDC)

ユハ・ウイト(地球環境ファシリティ(GEF)独立評価室長)

セミナー動画 https://youtu.be/XDnEgJATJ9g (英語)

 


会議の模様

 

 

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人工島「フルマーレ」 (C)モルディブ住宅開発公社(HDC)

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