世界最深の熱水活動の痕跡を 東北日本沖の古く冷たい太平洋プレート上で発見

早稲田大学

世界最深の熱水活動の痕跡を 東北日本沖の古く冷たい太平洋プレート上で発見

詳細は 早稲田大学Webサイト をご覧ください。

 

◆ 発表のポイント

○ 従来型の火山活動が無い東北日本沖の水深約5,700 mの海底から、世界で最も深い熱水活動の痕跡を発見した。この熱水活動を引き起こした火山活動として最も有力なのが、試料採取地点付近に存在するプチスポット火山である。

○ 近年続々と報告されつつある世界中のプチスポット火山で熱水活動が起きていると仮定すると、プチスポット火山に伴う熱水活動から排出されるメタンや二酸化炭素は、全球的な炭素循環に影響を与えうる量であると推定される。

○ 今回発見された熱水活動の痕跡は、海底熱水活動が存在しないと考えられていた海域に存在している。そのため、熱水孔付近に暮らす生物にとっては砂漠のような海域において、プチスポット火山が小さなオアシスとして機能している可能性があり、今後は活動中の熱水系の直接観察を目指す。

早稲田大学理工学術院講師の浅見 慶志朗(あざみ けいしろう)、千葉工業大学次世代海洋資源研究センター上席研究員の町田 嗣樹(まちだ しき)、東北大学東北アジア研究センター准教授の平野 直人(ひらの なおと)、東京大学大学院工学系研究科准教授の中村 謙太郎(なかむら けんたろう)・安川 和孝(やすかわ かずたか)、同大大学院工学系研究科教授の加藤 泰浩(かとう やすひろ)、京都大学大学院人間・環境学研究科教授の小木曽 哲(こぎそ てつ)、千葉大学大学院理学研究院教授の中西 正男(なかにし まさお)らの研究チームは、プチスポット火山(注1)から世界で最も深い水深における海底熱水活動(注2)の痕跡を発見しました。

本研究成果は英国Springer Natureのオンライン科学誌「Communications Earth & Environment」に、6月1日10時(ロンドン夏時間)に掲載されました。

 

 

■研究の波及効果や社会的影響

本研究は、プチスポット火山の熱水活動が水深5,719–5,707 mで起きていたことを明らかにしました。これは、カリブ海の水深4,960 mで発見された、これまでの熱水活動の最深記録を大きく更新するものです。プチスポット火山は、本研究で対象としたものよりもさらに深い水深でも発見されているため、本研究は世界最深の熱水系を示すと共に、さらに深い水深における熱水活動の存在をも示唆しています。

本研究から、プチスポット火山の熱水が鉄とマンガンを含むだけでなく、メタン等に富む事が示唆されました。これらの物質は熱水生態系の一次生産者である化学合成菌のエネルギー源であり、プチスポット火山の熱水系は化学合成菌にとって居住可能な環境であると言えます。プチスポット火山は、従来型の火山が存在しない古く冷たいプレート上に存在する唯一の熱水活動域です。そのため、熱水性生物(熱水噴出孔付近で暮らす生物)にとっては不毛な砂漠と考えられていたアウターライズ付近の深海平原において、プチスポット火山は熱水性生物が生存可能な小さなオアシスとして機能している可能性があります。実際に、海洋表層を浮遊する熱水性生物の幼体が黒潮に乗れば、最寄りの熱水系である小笠原諸島からプチスポット火山が存在する東北日本沖まで移動可能であり、プチスポット火山が熱水性生物の生息域拡大に貢献している可能性もあります。また、温室効果ガスである二酸化炭素やメタンに富む可能性のあるプチスポット火山の熱水活動の実態を明らかにすることで、地球の気候を支配する炭素循環への理解が深まると期待されます。

 

■今後の課題

本研究によって、プチスポット火山が熱水生態系や炭素循環を理解する上で非常に重要であることが示唆されました。一方で、本研究ではプチスポット火山における熱水活動の証拠が示されると同時に、既に熱水活動が終了している事も示唆されました。さらに、現在活動中の熱水活動は未発見のままであり、実際に噴出する熱水の化学組成や熱水生態系の有無は確認されていません。そのため、今後は熱水生成実験等を通じてプチスポット火山の熱水の性質をより詳しく調査すると共に、プチスポット火山の活動域で活動中の熱水活動の兆候をとらえ、有人潜水調査船「しんかい6500」を用いた直接観測を目指します。

 

■論文情報

雑誌名:Communications Earth & Environment

論文名:Hydrothermal ferromanganese oxides around a petit-spot volcano on old and cold oceanic crust

執筆者名(所属機関名):浅見 慶志朗1、2、町田 嗣樹2、平野 直人3*、中村 謙太郎4、5、2、安川 和孝4、5、小木曽 哲6、中西 正男7、加藤 泰浩5、2(1. 早稲田大学 創造理工学部環境資源工学科、2. 千葉工業大学 次世代海洋資源研究センター、3. 東北大学 東北アジア研究センター、4. 東京大学 大学院工学系研究科 附属エネルギー・資源フロンティアセンター、5. 東京大学 大学院工学系研究科 システム創成学専攻、6. 京都大学 大学院人間・環境学研究科 7. 千葉大学 大学院理学研究院 地球科学研究部門) *責任著者

掲載日時(現地時間):2023年6月1日(木)10:00(BST)

掲載日時(日本時間):2023年6月1日(木)18:00(JST)

掲載予定URL:https://doi.org/10.1038/s43247-023-00832-3

DOI:10.1038/s43247-023-00832-3

※記事にされる場合には https://doi.org/10.1038/s43247-023-00832-3 の掲載をお願いいたします。

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