日本GIFオンラインセミナー 「南極の過去から何がわかるのか―地球規模で考える気候変動と海面上昇―」
約9000年前の氷床融解が示す、将来の海面上昇予測とインフラ計画への示唆
2026年6月19日
セミナーで使用されたスライドより(C)菅沼悠介
公益財団法人日本グローバル・インフラストラクチャー研究財団(所在地:東京都港区、理事長:中山幹康、略称:日本GIF)は、2026年5月15日(金)午後2時から、Zoomを利用したオンライン形式にて、国立極地研究所・総合研究大学院大学教授の菅沼悠介氏を講師に、「南極の過去から何がわかるのか―地球規模で考える気候変動と海面上昇―」と題したセミナーを開催しました。
開催趣旨
気候変動に伴う海面上昇は、日本GIFが近年研究フィールドとしている太平洋島嶼国にとって、現在進行形の切実な問題です。海面上昇リスクの評価精度を高めるためには、地域ごとの現象だけでなく、海面変動をもたらす地球規模の仕組みを、長い時間軸の中で捉える必要があります。とりわけ南極は、将来の海面上昇を考えるうえできわめて重要な鍵を握る場所です。
本セミナーでは講師に、第四紀地質学、古気候・海洋学、古地磁気学を専門とし、南極氷床や海底堆積物、海水準変動をめぐる研究の第一線で活躍する、国立極地研究所・総合研究大学院大学教授の菅沼氏を迎えました。菅沼氏の研究者としての歩みや、南極内陸部での過酷なフィールド調査の実体験にも触れながら、なぜ南極での調査が必要なのか、そこで何が明らかになるのかについて、平易な解説が行われました。
また、菅沼氏の最新の研究成果である「ティッピング・カスケード(連鎖する氷床融解メカニズム)」も紹介されました。これは、ある地域で始まった氷床融解が海洋を通じて別の地域の融解を促し、変化が連鎖的に加速し得る可能性を示すものです。自然科学の知見を、気候変動予測、海面上昇への適応策、防災、インフラ整備、将来の政策判断へどのように活かしていけるのかを考える機会となりました。
講演要旨
1.二酸化炭素濃度上昇と極域の温暖化
・大気中の二酸化炭素濃度は人間活動の影響によって、産業革命前の280ppmから433ppmに上昇(2026年4月時点)。地球規模で温暖化が進んでいる
・温暖化の影響は北極・南極で顕著。将来予測において、極域変動の理解は重要な課題
・氷は、氷河・氷床・棚氷・氷山・海氷に分類される。海に浮く棚氷や海氷が融けても、海面は上昇しないが、陸上の氷床が海へ流れ込むと、海水量が増えて直接海面上昇を引き起こす
・2012年の北極海氷面積は1979年比で半減。グリーンランド氷床は過去約20年間で約5000ギガトン減少。全融解時の海面上昇は約7mと予測
2.南極氷床融解による海水準上昇の影響
・南極氷床の比較的温暖な地域では、2001年頃から棚氷の表面融解が進行。棚氷は氷床流動を止めるダムとなるため、融解すると氷床流動は加速。近年は西南極に加え、東南極でも融解が始まっている
・融解したときの海面上昇は西南極で約5.2m、東南極で約52.2m。海面上昇5mでも、日本の主要大都市圏は広範囲が水没すると見込まれる
・南極は低温の海に囲まれているため、大規模な融解は起きにくいと考えられるが、沿岸の棚氷は融解または崩壊している
・大規模氷床融解の仕組み解明には、約2万年前の氷期以降の南極氷床の融解復元が重要
3.南極観測の実体験と東南極縮小(謎1)
・菅沼氏は計7回の南極観測に参加、現地調査に従事
・内陸から沿岸にかけての露岩域を調査。氷床から露出した基盤岩や迷子石の宇宙線測定によって融解した時代を確定
・調査の結果、約2万年前の氷期終了後、東南極では約9000年前から急激な氷床高度低下が始まったことが明らかに。この低下は気温・水温のピークより遅く、当時の海水準上昇ピークと一致。海水準上昇が氷床縮小の鍵となった可能性がある
4.氷床融解のプロセスと周極深層水の役割(謎2)
・南極氷床融解に影響する、周極深層水(温かい深層水)の流入と氷床融解の関係を調べるため、リュツォ・ホルム湾/宗谷海岸で湖沼堆積物の掘削調査を実施
・長いもので5m近いコア(堆積物の地層)を採取し、CT画像解析を行った
5.大規模氷床融解のトリガー(謎3)とまとめ
・約20年前に採取された海底堆積物を現代のCT技術で再解析。南極観測船「しらせ」で新たに掘削した海底堆積物についてもCT解析
・堆積した地層から、氷床縁、棚氷、棚氷崩壊(約9000年前)、海氷という過去の氷床・棚氷後退過程を示す変化を確認
・数値シミュレーションでは、氷床融解水が海面を覆うと海水循環が変化し、深いところにある温かい深層水の流入がさらに強まる「正のフィードバック」が判明。また、南極の上流域で氷床が融解すると、融け水は下流に広がる
・約9000年前、地域的な海水準上昇と氷床起源の融け水により、温かい深層水が湾に厚く流入。棚氷崩壊、氷床流出が加速、大規模な氷床融解イベントが発生したと考えられる
・氷床融解には「連鎖機構(ティッピング・カスケード)」が存在し、一度始まると止めることが困難な大規模融解につながり得る。これは、将来の海面上昇予測の精度向上における重要な知見
講演後の質疑応答では、約9000年前に起きた大規模な氷床融解の現在への影響、ティッピング・カスケードや氷床不安定化がすでに始まっているか、将来の海面上昇をどの時間軸で考えるべきか、海外の海面上昇対策と日本の長期的なインフラ計画、南極観測の実体験や観測体制の課題など、多岐にわたる質問が寄せられました。
セミナー終了後のアンケートでは、回答者22名全員が本セミナーを「面白かった」と回答しました。関心が高かったのは、「南極氷床融解による海水準上昇の影響」「氷床融解のプロセスと周極深層水の役割(謎2)」「大規模氷床融解のトリガー(謎3)とまとめ」などのパートでした。自由記述では、最新の研究動向を知る機会となったことや、氷床崩壊のメカニズムに関する歴史的・地質学的な分析が興味深かったことなどを評価する声が寄せられました。
セミナー概要
主 催:公益財団法人日本グローバル・インフラストラクチャー研究財団(日本GIF)
日 時:2026年5月15日(金)14:00~15:30
名 称:オンラインセミナー「南極の過去から何がわかるのか―地球規模で考える気候変動と海面上昇―」
開催形式:Zoomを利用したオンライン形式(ウェビナー)
講 演 者:菅沼 悠介(国立極地研究所・総合研究大学院大学 教授)
司 会 者:坂本 晶子(日本GIF事務局長)
参 加 費:無料
動 画:https://gif.or.jp/seminar_youtube/antarctic-2/
講師略歴
菅沼 悠介

国立極地研究所・総合研究大学院大学教授。専門は、氷河地形・地質学、古地磁気学、宇宙線生成核種分析。南極氷床変動、北極海洋環境・海氷変動、地磁気逆転と地質年代などを主な研究テーマとし、海・湖の地層や氷河地形の解析・分析から、大規模な氷床融解メカニズムの研究に取り組む。2009–2010年の第51次南極観測隊以降、第53次、第55次、第57次、第59次、第61次、第64次の各南極観測隊に参加。南極氷床や海底堆積物、海水準変動をめぐる研究の第一線で活躍している。
セミナーで使用されたスライドより(C)菅沼悠介
本プレスリリースは発表元が入力した原稿をそのまま掲載しております。また、プレスリリースへのお問い合わせは発表元に直接お願いいたします。
このプレスリリースには、報道機関向けの情報があります。
プレス会員登録を行うと、広報担当者の連絡先や、イベント・記者会見の情報など、報道機関だけに公開する情報が閲覧できるようになります。
このプレスリリースを配信した企業・団体
- 名称 公益財団法人日本グローバル・インフラストラクチャー研究財団
- 所在地 東京都
- 業種 各種団体
- URL https://gif.or.jp/
過去に配信したプレスリリース
国際セミナー 「気候変動適応策としての環礁国における人工島開発」を開催
2025/12/23
国際セミナー 「環礁国における気候変動適応策としての人工島開発」を開催
2025/9/29
オンラインセミナー 「沈む国土と浮かぶ未来—海面上昇と国際法の最前線」を開催
2025/5/20





