協力効果が高い輸送ルートの組み合せを高速に列挙する 共同輸送マッチング技術を開発

2021年10月21日

日本パレットレンタル株式会社

国立大学法人群馬大学

報道発表資料

協力効果が高い輸送ルートの組み合せを高速に列挙する 共同輸送マッチング技術を開発

 

日本パレットレンタル株式会社(代表取締役社長:加納 尚美、本社:東京都千代田区、以下JPR)と国立大学法人群馬大学(学長:石崎 泰樹、以下 群馬大学)は、多数の輸送ルート が登録されたデータベースの中から、効率が高い共同輸送の組み合わせを瞬時に列挙して提案する、共同輸送マッチング技術を開発しました。

物流業界では人手不足が顕在化しつつあり、より少ないトラックでより多くの荷物を運ぶことができる共同輸送の必要性が更に高まっています。先進的な取り組みとして、AI等の新技術を活用したマッチングの効率化にも注目が集まっています。しかし、膨大な組み合わせを探索するのは計算機をもってしても時間がかかるため、依頼に瞬時に応答できるシ ステムの構築は困難でした。

 今回開発した技術では、数学分野で知られる「距離の公理」など、背後に潜む不等式を上手く活用し、正確さを犠牲にすることなく探索する範囲を絞り込みます。1台のトラックで、3本の輸送を逐次的に処理する三角輸送、3本の輸送を混載して同時に運ぶ混載輸送に対応し、効率性が高く協力することでメリットが得られる輸送ルートの組み合わせを瞬時に提示することが可能になりました。

 本技術は、JPRが提供する共同 輸送マッチングシステム“TranOpt”にコアエンジンとして搭載され、 2021年10月21日に一般ユーザー向けのサービスを開始しました。本技術以外にも、共同輸送を行う際の輸送運賃の予測値と、協力企業間での公平な費用負担を表示する機能を付加するなど、数学・数理科学分野の英知を活用しています。

 

■背景

 「物流危機」が叫ばれる昨今、トラックドライバー不足が顕在化しつつあるなか、物流産業における労働生産性の向上は喫緊の課題となっています。しかし、トラックの積載効率は40%未満(※1)(トラックの荷台には4割しか荷物が積まれていない)と依然として低い水準にとどまっており、その要因の一つは長距離輸送における復路の空車回送にあります。JPRはこれまで、異業種企業による共同輸送など、より少ないトラックでより多くの荷物を運ぶ取り組みを支援してまいりました。さらに、このような取り組みを物流業界全体に展開させる仕組み作りが重要であると考え、2019年10月に群馬大学(※2)と共同で、AI技術を活用した共同輸送マッチングシステムの開発に着手しました。本開発は、2019年10月から2021年3月まで、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)「Connected Industries推進のための協調領域データ共有・AIシステム開発促進事業」の助成を受けています。

■技術的な課題

1台のトラックで3本の輸送を逐次的に処理する一連の輸送を「三角輸送」といい、実車率の値が大きいほど効率が良くなります(図1)。一方、荷物を混載して同時に運ぶ輸送を「混載輸送」といい、短縮率の値が小さいほど効率が良くなります(図2)。A社からマッチング依頼があった場合、データベースの中からパートナー(B社・C社)を探索し、効率が良い三角輸送や混載輸送を列挙して提示します。1万本の輸送ルートが登録されている場合、2本の輸送ルートを選ぶ組み合せは約1億通りあります。その組み合わせに応じて変化する走行距離の計算も必要であるため、単純な総当たりでは計算機を用いても長い時間がかかってしまいます。現実には、物流企業は1社が多数の輸送ルートをもっています。1ユーザーからの複数のマッチング依頼や、複数のユーザーからの相次ぐ依頼にシステムが瞬時に応答するのは、従来手法では困難でした。

 

     

          


         図1:三角輸送             図2:混載輸送

 

■開発した技術

より簡単な例に置き換えて説明します。マラソンで30km地点を通過したところで、解説者が「大会記録更新の可能性は、上位3選手に絞られました」と発言しました。その根拠を考えてみましょう。この先のレース展開は未確定です。しかし、「各選手の10km毎のペースは、陸上10,000mの世界記録のペースを上回ることはない」という不等式は使えそうです。この不等式を使うと、記録更新には30km地点を最低でもこのタイムで通過しなければならない、というタイムリミットを逆算することできます。他の地点でも同様の議論ができます。ゆえに、未確定の情報があっても背後に潜む不等式を活用することで効果的な絞り込みが可能です。

A社から三角輸送のマッチング依頼があった場合、第一の輸送はA社の輸送であるため、第一の輸送の始点・終点・輸送距離は確定済みです。一方、第二・第三の輸送については、これからパートナーを探索するため未確定です。そこで背後に潜む不等式を活用します。数学分野で知られる「距離の公理」(別の地点を経由して目的地に向かう距離は、目的地に直接向かう距離以上になる、等)が使えます。距離の公理を巧みに使うことで、指定の実車率を達成するために必要な条件を「第一の輸送と第二の輸送の間の空車距離はこれ以下でなければならない」、「第二の輸送の輸送距離はこれ以上でなければならない」、といった形で逆算できることが分かりました。ゆえに、探索する範囲を大幅に絞り込むことができ、データ構造や探索の走査順序をさらに工夫することで、高速な列挙が可能になります(※3)。

 

■効果

匿名化された約17,000本の輸送データを用いて、 効率が良い三角輸送と混載輸送を列挙する実験をおこないました。指定する条件によって応答時間は変わってくるものの、単純な総当たりに比べて、三角輸送の探索の場合は4,000倍速く(※4)、混載輸送の探索の場合は1,500倍速く(※5)、条件を満たす組み合わせを正確に列挙することができました。本技術を活用することで、1ユーザーからの複数のマッチング依頼や、複数ユーザーからの相次ぐマッチング依頼に瞬時に応答することができます。

 

■数学・数理科学の貢献

近年、AIが出力する結果に対して、説明可能性が重要視されるようになってきました。本技術では高度な探索ロジックを用いているものの、出力される結果については「実車率が95%以上の三角輸送をすべて列挙している」、「短縮率が40%未満の混載輸送をすべて列挙している」という形で簡単に解釈ができます。その絞り込みの正当性(条件を満たす組み合わせを漏らしていない)については数学的に証明済みです。さらに、三角輸送や混載輸送を行う際の輸送運賃の予測値と、三社によるその公平な費用負担を計算し、ユーザーに表示するしくみを付加しています。公平な費用負担については、協力ゲームの理論(※6)を元に算出しています。このように、開発技術以外についても数学・数理科学分野の先人たちの成果を利用しています。

 

■今後の展開

本技術は、JPRが提供する共同輸送マッチングシステム“TranOpt”にコアエンジンとして搭載され、2021年10月21日に一般ユーザー向けのサービスを開始しました。今後、本技術が広く活用されることで、物流の飛躍的改善が期待できます。

 

※1)総合物流施策大綱(2021年度~2025年度)

※2)情報学部(当時 社会情報学部)ソーシャル数理研究室(吉良知文准教授)が開発を担当

※3) 当技術は、特許権利を10月20日に群馬大学及びJPRにて共同出願済み(特願2021-171440)

※4)実車率が85%以上になる組み合わせのうち実車率が高いものから100件を正確に列挙する処理を、異なる1,000件のマッチング依頼に対してそれぞれ実行した応答時間の平均値を元に算出

※5)短縮率が45%以下に なる組み合わせのうち短縮率が低いものから100件を正確に列挙する処理を、異なる1,000件のマッチング依頼に対してそれぞれ実行した応答時間の平均値を元に算出

※6)複数の事業者による協力が成立するための条件や協力時の公平な費用負担などを議論する数学理論

 

 

 

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  • 所在地 東京都
  • 業種 その他サービス業
  • URL https://www.jpr.co.jp
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