イノシシの行動圏や生息地利用を解明

イノシシに装着したGPS首輪のデータから行動圏や日中と夜間の利用場所を特定

岐阜大学

2023年6月26日

国立大学法人東海国立大学機構 岐阜大学

イノシシの行動圏や生息地利用を解明 イノシシに装着したGPS首輪のデータから行動圏や日中と夜間の利用場所を特定

 

【本研究のポイント】

・GPS首輪をイノシシに装着することにより、イノシシが利用している範囲や、日中と夜間における利用場所を特定することに成功しました。

・イノシシは比較的狭い範囲を利用し、人間活動が活発な時間帯では、人間の生活圏に近い環境や、人間が近付きやすい斜面を避けた一方で、人間活動の少ない時間帯では、耕作地周辺を選択的に利用していることが明らかになりました。

・イノシシの利用場所およびその時間帯を把握することにより、対策の重点地域を特定し、農作物被害や豚熱における対策を効果的に検討していくことが可能となります。

 

【研究概要】

 東海国立大学機構 岐阜大学応用生物科学部附属野生動物管理学研究センター 池田敬 特任准教授、東出大志 特任助教(現 石川県立大学 講師)、鈴木嵩彬研究員(現 同センター 特任助教)、同学部 淺野玄准教授らの研究グループは、環境研究総合推進費「イノシシの個体数密度およびCSF感染状況の簡易モニタリング手法の開発(JPMEERF20204G01)」ならびに岐阜県「清流の国ぎふ森林・環境税」を活用した「清流の国ぎふ森林・環境基金事業:野生動物総合対策推進事業」の一環として、イノシシの行動圏や日中と夜間における生息地利用を解明しました。

 日本において、イノシシの行動圏や生息地利用に関する事例は限られていましたが、本研究によりイノシシが比較的狭い範囲を利用し、人間活動に合わせて利用場所を変化させていることが明らかになりました。この成果を活用することによって、農作物被害や豚熱などにおいて捕獲や経口ワクチン散布などの対策を効果的に検討・実施していくことが可能になり、今後、イノシシ管理において大きく貢献していくことが期待されます。

 本研究成果は、日本哺乳類学会の発行する国際学術誌「Mammal Study」に2023年6月24日付で公開されました。

 

【研究背景】

 イノシシは農作物被害や人身被害を引き起こしたり、豚熱などの伝染病に感染する動物として知られており、これらの被害を緩和するためにイノシシの個体数を管理する必要があります。対象動物における正確な行動圏や生息地利用は、個体数管理の計画を立案するための有益な情報になります。イノシシの行動圏や生息地利用はヨーロッパを中心として数多く報告されていますが、日本においては限られた事例しかありません。特に、日本では2018年9月に岐阜県で豚熱が再発生し、イノシシが拡散の一因とされているため、イノシシの行動圏はウイルスの拡散を予測するため、生息地利用は効果的な捕獲や経口ワクチン散布に重要な情報となります。そこで本研究では、岐阜県美濃加茂市においてGPS首輪をイノシシに装着し、イノシシの行動圏や日中と夜間における生息地利用を解明しました。

 

【研究成果】

 スペインの研究では、イノシシが捕獲地点から平均45.8km移動していたため、本研究においてもイノシシの長距離移動が期待されました。しかしながら、その期待に反して、本調査地におけるイノシシでは、各個体の行動圏の重心と各測位点までの平均距離は0.26〜2.55kmと狭い範囲を利用しており、行動圏面積は0.32〜28.51km2でした(図1)。日本における同様の研究では、兵庫県で0.39〜9.47km2、島根県で0.81〜1.32km2と報告されており、調査地域における環境やイノシシの密度、GPS首輪を装着した個体(性別や年齢)、GPS首輪を装着している季節や期間に左右されることが分かりました。

 また、イノシシは人為的撹乱を忌避し、人間活動の少ない夜間に活発に行動するため、人間活動に合わせて利用場所を変化させていることが予想されました。本研究におけるイノシシは、予想通り、人間活動が活発な時間帯(日中)では、人間の生活圏に近い人工構造物や耕作地、水田面積の多い環境や、人間が近付きやすい緩い斜面を避けた一方で、人間活動の少ない時間帯(夜間)では、耕作地周辺を選択的に利用していました(図2)。

 

図1:岐阜県美濃加茂市でGPS首輪を装着した7頭のイノシシにおける行動圏。各色が各個体の行動圏、各色の内部にある白色が集中利用域を示す。

 

図2:イノシシが選択する利用環境のイメージ。日中(左図)は休息時、夜間(右図)は活動時を示す。

 

【今後の展開】

 以上のことから、イノシシは比較的狭い範囲を利用し、人間活動に合わせて利用場所を変化させていることが明らかになりました。実際に、イノシシ個体群におけるアフリカ豚熱ウイルスの拡散を調査した研究では、1km圏内では群れ内での接触、1-3km圏内では群れ間での接触が高いことが報告されています。このため、他の地域へのウイルスの拡散を防ぐためには、感染個体が発見された地域周辺での集中的な対策(経口ワクチン散布や捕獲)が期待されます。特に、ヨーロッパでは、休息地点周辺における対策が効果的と考えられているため、日本においても、日中の利用場所付近での捕獲や経口ワクチン散布を実施することが効果的であると考えます。また、イノシシは被害が多発している耕作地周辺の竹林で休息している可能性があり、これらの環境を整備することによって、イノシシによる被害を軽減できる可能性が高いと考えます。

 一方、本研究は、追跡期間が短い個体がいる点、性別や年齢を考慮できていない点、集落周辺における調査である点などの課題が挙げられます。このため、今後はイノシシの性別や年齢を考慮するだけではなく、イノシシによる豚熱の拡散予測のための山間部での研究や、養豚場での豚熱の発生防止を考慮した養豚場周辺での研究が実施されることが望ましいと考えます。

 

【論文情報】

雑誌名:Mammal Study

論文タイトル:Home range and habitat selection of wild boar (Sus scrofa) in rural landscape

著者:Takashi Ikeda, Daishi Higashide, Takaaki Suzuki, Makoto Asano

DOI: 10.3106/ms2022-0057 

論文公開URL: https://bioone.org/journals/mammal-study/volume-48/issue-3/ms2022-0057/Home-Range-and-Habitat-Selection-of-Wild-Boar-Sus-scrofa/10.3106/ms2022-0057.short 

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