折り紙と切り紙の融合

引っ張って折り上げる「キリオリガミ(Kiri-origami)構造」で伸びる電子回路を実現

早稲田大学

2025年6月25日

早稲田大学

折り紙と切り紙の融合

引っ張って折り上げる「キリオリガミ(Kiri-origami)構造」で伸びる電子回路を実現

 

詳細は早稲田大学HPをご覧ください。

【発表のポイント】

●折り紙と切り紙の構造を融合した、構造全体を引っ張ることで一括して折り線を折り上げる「キリオリガミ構造(Kiri-origami構造)」を開発しました。

●キリオリガミ構造(Kiri-origami構造)は、折り線を有する切り紙構造で、硬く壊れやすい電子素子を取り付ける平板部を有しかつ、多数の折り線を一括して折り上げ可能です。

●これにより、硬い電子素子や曲げに弱い素子を多数実装した大面積の伸縮電子デバイスが実現可能となります。

●実際に145個の硬いLEDチップを取り付けた「ストレッチャブルディスプレイ」を試作し、伸縮させても動作することを実証しました。

●今後、身体に貼れる機器や曲面への電子機器の設置など、ウェアラブル機器や次世代ディスプレイの実用化に貢献が期待されます。

 

 近年、身体に装着できる電子機器や、曲がるディスプレイなどの開発が注目されていますが、非常に多数の硬い電子素子を曲げ伸ばし可能な構造に組み込むのは困難でした。

 早稲田大学 理工学術院 岩瀬英治(いわせ えいじ)教授、修士課程(研究当時) 中村凪(なかむら なぎ)氏らの研究グループは、折り紙や切り紙という伝統的な発想を応用し、硬く壊れやすい電子素子を取り付けた構造を広い面積にわたって一括して折り線を折り上げ可能な新しい技術「キリオリガミ(Kiri-origami)構造※1」を開発しました。145個のLEDを備えた伸縮可能なストレッチャブルディスプレイ※2の実証にも成功し、今後、ウェアラブル機器や医療・福祉分野への応用が期待されます。

 本研究成果は、国際学術誌「npj Flexible Electronics」に2025年6月5日に公開されました。
論文名: Stretch-based kirigami structure with folding lines for stretchable electronics

 

キーワード:

折り紙、切り紙、キリオリガミ(Kiri-origami)構造、フレキシブル電子デバイス、ストレッチャブルディスプレイ、ウェアラブル機器、折りたたみ電子回路、次世代エレクトロニクス、self-folding

 

(1)これまでの研究で分かっていたこと

 電子機器を柔軟に曲げ伸ばしする方法論として、「伸縮耐性を有する材料の開発」と「材料に伸縮耐性を求めない構造の工夫(構造的柔軟性※3)」の2つのアプローチがあります。従来の硬い電子素子は、折り曲げたり引き延ばしたりすると破損しやすい一方で、有機材料などの伸縮耐性を有する材料より性能や安定性の面では良い場合が多くあります。そのため、近年、特に2010年代以降、折り紙・切り紙の構造を応用したフレキシブル電子デバイスが注目され始めました。折り目や切れ込みを活かして、材料や電子素子そのものは硬くても、構造によって全体を変形可能にする方法が考案されてきました。

 

(2)新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと

 私たちは、硬くて壊れやすい電子部品を多数搭載しながらも、全体を柔軟に曲げ伸ばしできる「新しい電子デバイス構造」を実現しようとしました。曲げ伸ばしできる電子デバイスの構造として、近年、折り紙構造や切り紙構造は注目されていましたが、それぞれに利点と欠点がありました。図1に、折り紙構造、切り紙構造と、我々が今回提案した「キリオリガミ(Kiri-origami)構造」のそれぞれの特徴を示しています。折り紙構造は、変形しない平板部を有するため硬くて壊れやすい電子部品を実装しやすい反面、多数のユニットを折り上げるのが困難である側面があります。また、切り紙構造は、構造全体の引っ張りにより多数のユニットを一括して展開するのは比較的容易である反面、平板部がないため硬くて壊れやすい電子部品の実装には向かないという側面があります。私たちは、「キリオリガミ(Kiri-origami)構造」と名付けた、折り紙構造と切り紙構造を組み合わせた構造を設計しました。この構造は、切り紙構造に折り線を設けた構造であり、電子部品を載せる平らな面を保ちつつ、構造全体を引き伸ばすことで多数のユニットの折り線を一括した折り上げが実現できます。

図1 折り紙・切り紙・キリオリガミ(Kiri-origami)構造

 

 さらに、次の2つの工夫によって正確な折り動作を可能にしました。

① バッファ構造の導入

 構造の端に「ばね」のように変形する部分を設け、引っ張る力を均等に伝えるようにしました。これにより、構造の端で発生するひずみやねじれを防ぎ、全体を安定して折ることができます。

② 二軸引張の制御

 縦と横の両方向にバランスよく引き伸ばすことで、折り線の形状に沿って自然に折れるよう調整しました。これにより、折り線以外の部分に無理な変形が起きず、正確な折りたたみが実現しました。

 

 図2に示すように、145個のLEDチップを取り付けた電子回路を、512箇所の折り目とともに正確に引張による折り上げを行うことに成功しました。折り上げた後でも電子素子の機能は保持され、実用的なフレキシブルディスプレイとして機能しました。この技術は、身体に装着するウェアラブル機器や、曲面・可動面に取り付けるスマートセンサーなど、次世代のエレクトロニクス分野に幅広く応用可能です。従来困難だった「高性能電子部品のフレキシブル化」が現実のものとなると期待されます。

図2 LEDチップを取り付けた基板を引っ張りにより折り上げて製作したストレッチャブルディスプレイ

 

(3)研究の波及効果や社会的影響

 本研究で開発した「キリオリガミ(Kiri-origami)構造」は、硬くて壊れやすい電子部品を柔軟に曲げ伸ばし可能な構造体に組み込む新たな手法を示しました。これにより、従来困難だった「高性能電子素子のフレキシブル化」が現実の選択肢となり、複雑な動きや形状に対応する電子デバイスの設計が可能になります。

 社会的には、以下のような分野での活用が考えられます。

●ウェアラブル機器:衣服や肌に密着する医療モニターや健康管理デバイス

●次世代ディスプレイ:折りたためるスマートフォンや曲面設置型の広告表示装置

●ロボティクス・福祉機器:柔軟に変形するセンサーやアクチュエーターによる安全な人間支援ロボット

 また、学術的には、折り紙・切り紙の構造力学と電子機器設計を融合した新領域の開拓につながり、機械工学、電子工学、材料科学の複数分野における研究の加速が期待されます。

 

(4)課題、今後の展望

 本研究は構造の工夫だけで大規模な折り動作を実現しており、製造工程や材料選定の自由度が高い点も特徴です。今後、企業との連携による実用化が進めば、持ち運びが容易で壊れにくい、生活に密着した電子機器の新しい形を創出する可能性があると考えています。

 

(5)研究者のコメント

 折り紙や切り紙は、日本では子供でも知っているものでありながら、学術的にも興味深い特徴を多数持っているため、「Origami」、「Kirigami」という単語が国際的な学術用語にもなっています。今回提案した「Kiri-origami」という単語も、「Origami」、「Kirigami」という単語に続いて、国際的に使われるようになれば良いと思っています。

 

(6)用語解説

※1 キリオリガミ(Kiri-origami)構造

折り線を有する切り紙構造に折り線を設けた構造であり、電子部品を載せる平らな面を保ちつつ、構造全体を引き伸ばすことで多数のユニットの折り線を一括した折り上げが実現できるという特徴を持ちます。また、折り上げ後には、平らな面を保ったまま曲げ伸ばしができる構造です。

 

※2 ストレッチャブルディスプレイ

伸縮変形が可能なディスプレイのことです。薄いフィルムは曲げられるように、曲げ変形が可能なディスプレイは薄くすることで実現が可能であるが、伸縮変形が可能なディスプレイは曲げ変形が可能なディスプレイより実現が困難です。

 

※3 構造的柔軟性

材料自体は硬くても、形の工夫によって曲げたり伸ばしたりできる性質。設計上の工夫で柔軟性を持たせたものです。

 

(7)論文情報

雑誌名:npj Flexible Electronics

論文名:Stretch-based kirigami structure with folding lines for stretchable electronics

執筆者名(所属機関名):Nagi Nakamura(早稲田大学)*、Eiji Iwase(早稲田大学)

*:責任著者

掲載日時:2025年6月5日

掲載URL:https://doi.org/10.1038/s41528-025-00409-4

DOI:https://doi.org/10.1038/s41528-025-00409-4

 

(8)研究助成

研究費名:科研費 基盤研究(S),JSPS KAKENHI (Grant Number 22H04954)

研究課題名:切り紙構造が誘起する折り紙構造の学理創出とデバイス実証

研究代表者名(所属機関名):岩瀬英治(早稲田大学)

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